井川ヒロトのブログ

志について探求を続ける 井川 ヒロト が、ニュース・社会・政治・教育・作品(映画、演劇、インプロ、音楽、本、DVD、TV番組・ラジオ)などについて思った事を綴ります。※記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属団体の公式見解ではありません。

問題解決でなく、解決構築へVol.7(フィードバック)

本シリーズ企画「問題解決でなく、解決構築へ」は、問題解決思考だけでは解決が困難な現在における様々な問題に対する代替となりうる「解決構築思考」について理解を深めることを目的に、以下の著書の要点をまとめていきます。

なお、この連載で取り上げるのはあくまで要点のみであり、原書にはその事例やより詳しい説明が書かれているため、正確な理解のためには原書をご確認いただきますようお願いいたします。

※本シリーズ企画の目的についての詳細はVol.0をご覧ください。

 

解決思考アプローチの第一人者であるピーター・ディヤングPeter De Jongとインスー・キム・バーグInsoo Kim Berg著の「解決のための面接技法 ソリューション・フォーカストアプローチの手引き第4版 Interviewing for Solutions 4th Edition

 

 

第7章 クライアントへのフィードバックをつくる

 

これまでの章で、解決思考による面接法の構成要素について述べてきました。

・クライアントとの生産的な関係づくり

・クライアントの願望の尊重

・ウェブフォームド・ゴールを作るための面接法

・例外探しの方法

 

ゴール

 

 

 

本章では、面接で集めた情報を使って、クライアントの解決構築に役立つフィードバックを組み立てる方法について検討します。

それに当たり、ここでも問題解決アプローチにおける介入との比較から考えていきます。

 

問題解決アプローチにおける介入では、臨床家(カウンセラー)はどんな行動がそのクライアントに最も有益かを決定するためにクライアントの問題の性質と重大さについてのアセスメントから得られた情報を用います。

 

ひとたび介入が決定されると、臨床家は自分でその行動をとるか、クライアントがその行動をとるよう推奨します。そして、これらの行動や介入がクライアントに肯定的な変化を生み出すと考えられています。介入は、専門的なアセスメント情報と専門的理論に基づいて臨床家によって構成されるので、問題解決アプローチでは臨床家が変化の主体であるといえます。

(Pincus & Minahan, 1973)

 

この視点でクライアントに臨む事に対する反論はVol.4でも述べましたが、改めてその要約を述べます。

問題解決思考では、専門家がクライアントにとって最善のことを知っているという考えを前提としているため、クライアントに対し「協力的である」「抵抗する」と分類し、クライアントの抵抗という考えを使えば、悪いのは進歩しないクライアントであり、援助者は責任を負わずに済むと考えてしまえます。

 

実際、広い意味での対人援助職方々とお話ししていると、表向きは立派なことを仰っていても、突き詰めると結局は「これだけやっても無理なら」といった言葉と共に支援を受ける側の適正を言い訳のように罵る援助者と呼ばれている人をカウンセラーになってみて、そして解決思考を学んでみて多く見えるようになっていました。

(問題思考に染まっていたかつての私は、その違和感には気づけていませんでした)

 

 

対照的に、解決思考では面接終了時のフィードバックがその他の要素よりも重要だとは考えません。

むしろクライアントが自分の大切な目標を実現するために、自らの長所を生かして解決をつくっていくための一つの手段だと捉えます。

 

まさに、クライアント(臨床家ではなく)が変化の主体なのです。

 

面接の中でクライアントは自分と周りの状況について述べますが、面接終了時のフィードバックは、その情報ノア中からクライアントの解決構築に最も有益だろうと思われる部分を整理して強調するだけです。

 

 

ここからは、具体的なフィードバックの手順とフィードバックの構成をお伝えしていきます。

 

<手順>

1.休憩を取る

フィードバック前に5~10分の休憩を取ります。休憩中は面接室にクライアントを残すかして、一人になってもらい面接を振り返る時間を取り、逆に臨床家はその間にフィードバックの構成を考えます。

 

2.フィードバックをする

具体的方法は後述します

 

3.次の面接を決める

「次回の面接はいつがいいか」と尋ね、同時に「今回以降の進歩について話してください」という言葉で締めくくります。

 

 

<フィードバックの構成>

【コンプリメント】

コンプリメントはクライアントを肯定することです。

第一に、コンプリメントはクライアントにとって重要なものを肯定します。

第二に、コンプリメントはクライアントの成功と長所を肯定します。

コンプリメントした後のクライアントの反応をよく観察します。もしコンプリメントが的を得ていれば、うなずいたり「ありがとう」と言ったります。そうでなければ、次回の面接までに今までの情報を評価しなおさなければなりません。

 

【ブリッジ】

フィードバックで最初に伝えるコンプリメントと最後の伝える提案とを結びつける部分がブリッジです。

ブリッジは提案の理論的根拠となります。

ブリッジの内容としては、通常はクライアントの目標、例外、調書、考え方が使われます。

ブリッジは「あなたの仰る通り・・・」で始まるのが一般的です。

 

【提案】

提案は、観察提案と行動提案の二つに大きく分類されます(de Shazer, 1988)。

観察提案では、面接で得られた情報をもとに、臨床家がクライアントに、生活の中で解決構築に役立ちそうな特定の側面に注目することを提案します。

 

行動提案とは、臨床家がクライアントに実際に何かをするように求めるモノです。

 

 

<提案の決定>

【ウェルフォームド・ゴールはあるか】

クライアントのウェルフォームド・ゴール作りがどこまで進んでいるかを考えることが重要です。

クライアントは生活に起こってほしい違いをはっきりと述べたか。それを具体的に、行動の形で説明できたか。また、問題の不在ではなく望ましい事の存在という形で、最終的な結果ではなく最初のステップで定義できているか。他者との関係や状況を表す言葉で説明できているかといった視点で、整理できているかを確認します。

 

 

【クライアントの状況ごとの対応の決定】

この項目については本書にも記載があるが、日本における解決思考の第一人者である、黒沢幸子先生と故森俊夫先生の著書「森・黒沢のワークショップで学ぶ解決志向ブリーフセラピー」の分類法が分かりやすいため、そちらを参照します。

 

 

・ビジタータイプ

「こういうことで困っている」や「こうしたい」といった表明をしない=ウェルフォームド・ゴールがはっきりするまでの関係に至っていない場合の対応

①褒める、ねぎらう(=コンプリメント)

②クライアントの話しに載って、ほめる(雑談に打ち興じる)

③返す(「また、顔出してね」)

※セラピストから問題を提起することはしない

 

・コンプレイナントタイプ

「問題は自分にはなく、周りにある」「解決のためには、周りが変化しなくちゃいけない」という形で訴えている場合の対応

①褒める、ねぎらう(=コンプリメント)

②観察力をほめる

↓ブリッジ

③他者・状況の「例外」探しの観察課題を出す

 

・カスタマータイプ

「こういうことで困っている」や「こうしたい」といった表明をしている=ウェルフォームド・ゴールがはっきりしている場合の対応

①褒める、ねぎらう(=コンプリメント)

②ゴールについての話し合いや解決に向けての話し合いをした上で、クライアントの言葉を使いながら(ブリッジ)・・・

③行動課題を出す

 

【上記3分類をする際の注意点】

①評価尺度・発達尺度として使わない

②人格査定に使わない

③迷ったら、より初期の方に合わせる(カスタマータイプよりコンプレイナント、コンプレイナントよりカスタマータイプへ)