問題解決でなく、解決構築へVol.4(解決構築の出発点)
本シリーズ企画「問題解決でなく、解決構築へ」は、問題解決思考だけでは解決が困難な現在における様々な問題に対する代替となりうる「解決構築思考」について理解を深めることを目的に、以下の著書の要点をまとめていきます。
なお、この連載で取り上げるのはあくまで要点のみであり、原書にはその事例やより詳しい説明が書かれているため、正確な理解のためには原書をご確認いただきますようお願いいたします。
※本シリーズ企画の目的についての詳細はVol.0をご覧ください。
解決思考アプローチの第一人者であるピーター・ディヤングPeter De Jongとインスー・キム・バーグInsoo Kim Berg著の「解決のための面接技法 ソリューション・フォーカストアプローチの手引き第4版 Interviewing for Solutions 4th Edition
第4章 (解決構築の)出発点
はじめに、自己紹介した後でクライアントにどう呼んで欲しいか尋ね、私たちもどう呼んで欲しいと伝えます。
次に、クライアントが通常どんな一日を過ごしているかなどを尋ねるとよいとされています。こうした質問をアイスブレイクとみなす人もいますが、こうした質問の中から、クライアントの可能性のヒントを聴いていきます。
その後、問題の話に入る前に、面接の進め方を説明し、同意を得ると良いです。
ここで紹介されている一般的な解決構築面接の具体的な進め方としては、初回面接で30~40分掛け、問題、目標、例外、長所などについて話し合っておくと有効です。こうした情報が集まれば、10分の休憩を取り、その間に面接の最後に伝えるフィードバックを作ります。
上記の手順をまとめると、解決構築の臨床家は、面接開始時に次の2つを知ろうとします。
1.自分自身と状況についてのクライアントの認識や理解
2.クライアント自身の願望
その為の手法や考え方は第3章でも述べましたが、以下にその要点と注意点を中心に改めてまとめます。
【問題の描写】
第3章でも述べたとおり、クライアントの指向の枠組みに沿って取り組んでいくためには、「知らない姿勢」をとらなければなりません。
クライアントの見方を尋ね、聴き、肯定する必要があります。
この内容についての私の理解としては、援助者は「問題」自体に注目するのではなく、クライアントがその「問題」をどう捉えているか、見ているかを意識することであると思います。
本書においても、「問題がどうクライアントに影響しているか」を確認し、クライアントにとっての問題の意味を確認することの大切さが述べられています。
これは、問題自体とその原因を、援助者が専門家の視線で確認するアプローチとは正反対の捉え方です。
【クライアントがこれまでに試みたことで役に立つ事は何か】
クライアントは通常、問題をなくそうとして何らかの対処をしてきており、こうした試みはほとんどの場合、多少なりとも成功しています。「これまで何をしたか」とたずねる事は、クライアントには良い変化を起こすチカラがあるという解決思考の信念を伝えることになります。
【クライアントの望みに、ともにどう取り組むか】
多くのクライアントは問題の描写や問題の二次駅影響の話(プロブレム・トーク)をし、クライアントが臨む生活の中での違いについての対話(ソリューション・トーク)をしようとしても、すぐにプロブレム・トークに戻りがちです。
解決構築アプローチでは、クライアントの認識や大切なことについて承認しつつ、初回面接開始後5分~10分以内にソリューション・トークへの転換に挑むことが望ましいとされています。
これは、クライアント自身が解決に積極的なケースであっても、来談自体に否定的(むりやりつれてこられたようなケース)であっても基本的な考え方やアプローチは変わりません。
クライアントが変化に無関心だったり抵抗したりするような状況での面接の始め方についての4つの指針があるので、示しておきます。
1.クライアントの考えや行いには十分な理由があると仮定すること。
2.臨床家の判断を一時脇において、防衛的な姿勢の背後にあるクライアントの認識を認めること。
3.クライアントの最大の関心事、望んでいることについて必ず尋ね、クライアントの答えを受け入れること。
(質問するという事は、相手の見方を受け入れる用意があることを示す)
4.クライアントの言葉を傾聴し、あなたの言葉に言い換えずに、そのまま使うこと。
【問題解決思考や援助職の医学モデルによるクライアントの見方についての反論】
問題解決思考では、専門化がクライアントにとって最善のことを知っているという考えを前提としています。そのため、クライアントに対し「協力的である」「抵抗する」と分類し、抵抗するクライアントに対しては、専門家はそれに挑戦して対決し、認識を改めさせない限り、クライアントは変化しない(治療できない)と考えます。
つまり、主体としての援助者(臨床家)は客体としてのクライアントを専門的な見立て(アセスメント)と介入で変化させることを期待されています。その結果、クライアントが進歩を示せば援助者の功績となり、自分は有能だと感じます。ところがクライアントが進歩を示さない場合、援助者の功績にはならないうえに、援助者とクライアント双方が援助者の有用性を疑います。
ところが、クライアントの抵抗という考えを使えば、悪いのは進歩しないクライアントであり、援助者は責任を負わずに済む。その為に「抵抗」という考えを使っているのではないかと、「やや懐疑的に考えるなら」という前置きをしつつ、本書では述べています。
逆にスティーブ・ディ・シェイザー(de Shazer,1984)の「抵抗の死」というタイトルの次のような論文を紹介しています。
援助者によってかされた課題に従わないクライアントは、抵抗しているのではなく、その課題が彼等のやり方にそぐわないことを援助者に伝えているのであり、まさに協力しているのです。
クライアントには願望や必要なものと、それを得るための方法を考え出す能力があると仮定しています。そして、援助者の責務は、クライアントの選択に従い、満足度の高い生産的な生活にするために、彼らが自身の能力に気づき、それらを活かしていくよう援助することであると述べています。
つまり、クライアントが有能であるという考え方をいったん受け入れると、クライアントの抵抗とみなされていたものは、正確には臨床家の抵抗であるという屈辱的かつ挑戦的な結論が得られるのです。
上記の考え方に私は賛成であると同時に、実社会においてそうした環境を作ることの難しさと(だからこその)大切さを、本章を読み進めながら改めて感じています。
表向きや掛け声として、「うまくいかないのはクライアントのせいではなく、こちらの至らなさ」であるとは言えるかもしれません。しかし、仕事をする上で、問題が起きた時に自分や自分達の責任とすることができる信頼関係と覚悟を築く事は難しいからです。
逆に言えば、そうした信頼関係と覚悟を築くことは、問題点とその原因から解決策を考えるという今までの視点を超えた、理想の姿やありたい姿とそのために活かせるリソースに目を向けられるより広い視野を持つタフな組織作りに繋がるのだと考えています。