人と人との対立関係の修復方法
キャリアカウンセリングにも、色々な流派があるが、私は数ヶ月前から「解決思考ブリーフセラピー」を学んでいる。
昨日も研修を受けたので、その内容について少し書き留めておきたい。
ブリーフセラピーについての詳しい説明はまた改めてしたいが、簡単に説明すると、理論に忠実であることよりは、効果性を重んじ、問題思考ではなく、解決思考でクライエントに向き合い、クライエントのありたい姿に近づけていこうと考えて接する考え方。
問題思考とは、問題点を見つけて、それを取り除いて治療しようとするアプローチ。
要は原因を見つけて、それに対処する薬を投薬して直す西洋医学的な考え方。
カウンセリングでもお医者さんが治療で活用するために開発されてきた経緯があるので、この問題思考の方が主流。
解決思考は、過去や原因の追究をするというよりは、目の前の人のありたい姿や未来を考え、その未来のためのチカラ(リソース)を見つけて、一歩ずつ進んでいくためにどうしたら良いかを一緒に見つけていく考え方。
この考え方はカウンセラーとクライエントといった関係でなくても、友人同士や家族でも活かせる。
もっと詳しく知りたい方は、日本におけるブリーフセラピーの第一人者である、森俊夫先生と黒沢幸子先生の著書「解決思考ブリーフセラピー(ほんの森出版)」を読まれることをお勧めする。お二人の対話形式で書かれているため、非常に読みやすいし、分かりやすいし、実践的内容も充実している。
さて、前置きが長くなったが、本題の「人と人との対立関係の修復方法」について。
人は生活をしている上で、意図せずに人を傷つけ、傷つけられてしまう。
そうなった場合、その人との関係を絶つということは選択の一つかもしれないが、関係の修復を試みることはより大切な選択肢だ。
でも関係の修復をする際に、傷つけた、あるいは傷つけられたという原因を忘れること、消すことには無理がある。
例えば、軽くからかう気持ちだった加害者と、その言葉によって傷つけられた被害者の関係性において、過去に戻ってその言葉を消すことはできないし例え「もう忘れよう」と約束をしたところで、人間はコンピュータのように記憶を都合よくは消せない。
ここで解決思考が活かせる。
「何故そうなったか?」「どうして?」ということよりも、「今後どうしていきたいのか」「そのために活かせる二人のチカラ(リソース)は何か」を考え、前に進められるからだ。
研修では、実際に学校教育で活用できるワークを通して、関係の修復について学んだ。
ワークは3人あるいは4人一組で行う。一人は被害者役、もう一人は加害者役、残りは告げ口をする友人役である。
加害者役が、被害者役に対して、口頭あるいはインターネットなどを通じて悪口を言い、それを友達役の人が被害者に伝えるところからはじめ、被害者役は加害者、そして友人に詰め寄るが、理解は得られない。
その後、1日後の設定で、今度は友人役は被害者役に謝罪をし、友人役と被害者役で、加害者役のところへ行き、理由はどうあれ悪口をしたことは悪いことであったと伝える。
加害者役も、今度は理由はどうあれ、謝罪をし、今後お互いのためにできることを話し合う。
この一連のワークを行い、その後、それぞれの感想を言い合う。
一般的に起こりやすい人間関係トラブルを例にしたこのワークを行うことは、以下のような人と人同士の対立の構図を理解できる。
・意図していなくても、いつでも誰でも加害者になりえる。
・加害者とされた側は、一方的に責められるほど、自分は悪くない、加害者ではないと思おうとする。
・告げ口をした友人も、加害者にはなりたくないという発想が働き、被害者の想いを受け止めることが必ずしもできるわけではない。
・被害者としては、原因(ワークの例では、悪口を言われたこと)よりもむしろ、誰にも自分の気持ちを理解されない、受け止めてくれないことからくる孤独感の方が辛い。
・当事者同士だけの話し合いの方が、間に友人が介入するよりもスムーズに解決することがある。
・第三者が、しばしば問題を大きくする原因になっていることがある。
・正しいか否かは、しばしばその内容よりも、たまたまそこにいる人の多数派が選択権を持ってしまうことがあり、自分に非が及ばないために、数を利用して本質を歪めようとすることがある。
・謝罪は双方の想いや理解を進めるためのよいきっかけとなる。
・ただし、謝罪をしても、相手がその謝罪を拒否するのではないかという恐怖が、謝罪を難しいものにすることがある。
・お互いの状況や想いを共有することが、しばしば未来志向の関係構築の土台になる。
ワークによって、日常的に怒りえる人間関係の対立の構図を体験的に理解でき、対立関係の修復をする思考を持つことができるため、学校教育に限らず、職場や団体(例えば老人ホームなど)にも活用できる。
注意点としては、このワークはちゃんとやると1時間弱ほど掛かるが、中途半端にはやらないほうが良い。
擬似ワークとはいえ、被害者役が加害者にも友人役にも突き放される場面ではかなり落ち込むため、それを引き上げるところまで一気にやる必要がある。
「フィンランド式 叱らない子育て―――自分で考える子どもになる5つのルール」(ベン・ファーマン (著), バレイ 友佳子 (翻訳) ダイヤモンド社)