問題解決でなく、解決構築へVol.1
本シリーズ企画「問題解決でなく、解決構築へ」は、問題解決思考だけでは解決が困難な現在における様々な問題に対する代替となりうる「解決構築思考」について理解を深めることを目的に、以下の著書の要点をまとめていきます。
なお、この連載で取り上げるのはあくまで要点のみであり、原書にはその事例やより詳しい説明が書かれているため、正確な理解のためには原書をご確認いただきますようお願いいたします。
※本シリーズ企画の目的についての詳細はVol.0をご覧ください。
解決思考アプローチの第一人者であるピーター・ディヤングPeter De Jongとインスー・キム・バーグInsoo Kim Berg著の「解決のための面接技法 ソリューション・フォーカストアプローチの手引き第4版 Interviewing for Solutions 4th Edition
第1章 問題解決から解決構築へ
本書ではまずはじめに問題解決アプローチと解決構築アプローチの要点をまとめ、対比を計っています。
【問題解決アプローチ】
アセスメント(問題の原因を特定する作業)は、クライアントの問題の本質や原因について、専門家の推測を含み、それがクライアントとのその後の作業やかかわりの土台となる。
つまり、アセスメントを元に、専門家がクライアントに対し、目標を設定し、介入し、進歩を評価する。
【解決構築アプローチ】
クライアントは自分自身の力量や成功体験をもとにして、自分の解決法をつくる。
<問題解決として援助すること>
問題解決の段階についてはVol.0においても一般的な事例を元に説明しましたが、改めて本書記載に順じ5段階で整理します。
本書では対人援助職の場合を想定して書かれていますが、対人援助以外の場面においても置き換えが可能であると思います。
1.問題の描写とデータ収集
クライアントは軽減させたい心配について述べ、援助者は専門的アセスメントを行うためにクライアントに問題の詳細を尋ねます。
※お医者さんであれば、問診をしたり、レントゲンを取ったりという段階
2.問題のアセスメント(問題の原因について検討する)
援助者は、クライアントの問題の性質と程度について専門性を活用して問題の分類分けや原因の特定を行います。
※お医者さんであれば、病気の原因について問診やレントゲン等の情報をもとに特定を行う段階
3.介入作り
援助者はクライアントと目標のリストを作り、問題の解決もしくは改善をするための一連の介入方法を専門知識を利用して作成します。
※お医者さんであればどんな薬を処方し、何日間飲めば良いか、あるいはどんな投薬が必要かを考える段階
4.介入
問題解決のための介入を実行します
※お医者さんであれば必要な薬を注射したり、処方して患者に飲んでもらう段階
5.評価とフォローアップ
介入の後、結果を追跡して介入の正否を判定します。
上手くいっていなければ介入を修正しますし、両者が問題が解決したと判断できればその時点で面談は終了します。
※お医者さんであれば、一週間後に再診に来てもらい、状態を確認し、必要であれば処方薬の変更を行うなどの対応をする段階
問題解決思考とセットでよく使われるPDCAサイクルでいえば、1~3はPLAN、4はDO、5はCHECKとACTIONという流れでしょうか。
こうした問題解決アプローチは医学モデルを元に組み立てられ、援助職をはじめ世間一般の考えにも影響を及ぼしました。
<問題解決アプローチの前提>
問題解決アプローチでは援助者(専門家)は、クライアントの悩みや苦しみを理解して初めて援助できるという前提があります。
これは援助者が問題やニーズを特定したり、病気を診断したりする際にあてはまります。
この前提の核心は、「一つの問題には一つの必然的な解決がある」ということです。そのため、援助者は一つ一つのケースに最も効果的な介入を選ぶために、正確なアセスメントを行う必要があるのです。
つまり、この前提を言い換えると、問題を特定する事は、解決に何らかのかたちで繋がっているということも出来ます。
また、援助者としては数多くの問題とそれに対するアセスメントの手続きや介入方法の技術に精通していることが重要となります。
<問題解決思考に対する疑問点>
クライアントの問題はパズルではない
ジュリアン・ラパポート(Rappaport,1981)は、援助職が扱う問題と、医学モデルが当てはまる疾病との間にはほとんど類似点がないと主張しています。
問題解決思考で考えていけば、パズルはどれほど複雑でも、全てのピースがそろっていれば必ず完成します。
バクテリアの病原体の発見やその治療などにも同じことが言えます。つまり、厳密で精巧な研究を重ねていくと、それは次第に正しい解決へと収束していきます。
しかし、援助職が出会う問題はパズルとは異なり、多くの場合、唯一つの正しい解決というものはありません。
例えば、ある家族が親子間の葛藤について相談するために専門家を訪れたとします。
子ども達は放課後いたずらをして共働きの両親の注意を引こうとしています。専門家は両親に、どちらかが働く時間を減らし、もっと子どもと過ごすようにと助言したくなります。
しかし、この解決は両親の職場での立場を悪くし、そのために両親が不安になり、親子関係がさらに悪化するかもしれません。
その親のその時点でのニーズ、子育ての経験、仕事や子育てに関する価値観などによって変わります。
人も、物の見方も様々なので、このような問題の解決策は一つではありません。
そのため、ラパポート(Rappaport,1981)は、援助職においては拡散的な考え方が適していると主張しています。
拡散的な解決法は、問題についての視野を広げるからです。
クライアントの役に立つという目標の下、拡散的な考え方では、援助職の専門知識だけでなく、クライアントの見方も重視します。
解決構築アプローチにおける援助職の使命とは、
「クライアントが建設的で満足な生活を送るよう元気付けることである」と考えます。
その為、問題ではなく、クライアントの長所に焦点を当ててクライアントと向き合うのです。
これは、物事や1人の人間と向き合う上で、クライアントは問題を持ち込む人で、専門家は解決する人だという問題解決思考とは大きく異なる人としての「あり方」といえます。