井川ヒロトのブログ

志について探求を続ける 井川 ヒロト が、ニュース・社会・政治・教育・作品(映画、演劇、インプロ、音楽、本、DVD、TV番組・ラジオ)などについて思った事を綴ります。※記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属団体の公式見解ではありません。

対人援助職、キャリアカウンセラー、キャリアコンサルタントの方には是非観ていただきたい動画

SFA(ソリューション・フォーカストアプローチ=解決志向アプローチ)というブリーフセラピーの一つであるカウンセリング手法は、一般的に用いられているカウンセリングのように、その人の傾向や問題とその原因を傾聴して気付きを促すアプローチではありません。

相談者である相手の在りたい姿と、その人の持っているリソース(前進するためのチカラや環境)に注目し、ありたい姿にどう近づいていけるかを対話を通じで見つけていくアプローチです。

その開発者の一人であるインスー・キムバーグによる学校のクラスへカウンセリングを行う動画について、私なりの捉え方で解説をしてみます。


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この動画は、個人ではなくクラスを対象にしたカウンセリングですが、SFAではアプローチの基本は個別カウンセリングと変わりません。

まず初めに、相談者である先生に対し「どうなりたいか」を質問するところからカウンセリングが始まります。この対話を通じ、相談者とカウンセラーがともに目指すべき「北極星」を定め、どの方向に互いに歩んでいくかを確認しています。

動画の当初、先生方は起きている問題について語ります。もちろんそれが先生方の悩みなのでインスーはそれを傾聴しますが、そこを深く掘り下げる代わりに、「先生方が生徒のことを深く想っている」と感じたと先生方へフィードバックを伝えます。そしてもう一度「どんな未来を望んでいるのか」を先生方に聴いています。

その後インスーは生徒達を観察し、このクラスがあるべき姿に近づくために役立つと思われるリソースを確認していきます。
そして生徒にそのリソースを伝えます。
その行為をSFAでは「コンプリメント Compliment」と言います。コンプリメントは「褒める」と訳されることが多いのですが、一般的な褒めるとはニュアンスが異なります(と私は捉えています)。

SFAでは「相談者の人生の専門家(一番詳しい人)は相談者自身である」というスタンスでクライエントと向き合います。
そのため、一般的な「褒める」のように、上の立場の者が下の立場の者を評価するというスタンスでコンプリメントは行なわれません。
コンプリメントは、セラピストと相談者が同じ目標に向き合うなかで、客観的に見えた相談者のリソースという事実を、セラピストが相談者に伝えるという感覚のものです。

例えばインスーは、子どもへのフィードバックを行う時、具体的な行動を伝えています。一人の子がカンシャクを起こした事についても、その原因や問題点に注目するのではなく、「我慢をした」という具体的な状態にフォーカスしてそれを伝えています。「素晴らしい」という一般的に使われる誉め言葉はあくまで添える程度に使用しています。

その後、スケーリングクエスチョンをします。
「10は最高のクラスで、1は最低のクラス、このクラスはどのくらいですか?」と子どもたちへ問いかけます。
子ども達はリソースへのフィードバック(コンプリメント)を得ているので、6〜9と高い数字を答えました。
これがインスーからのフィードバック前であれば大分結果は変わっていたと思います。

そしてインスーはこの後、自身の評価として「8.5」と伝えます。この伝え方が非常に素晴らしい。ここではあえて専門家としての評価という前置きをして8.5と伝えます。

これは前述した「SFAでは専門家として相手と向き合わない」と矛盾があるように見えるかもしれませんが、そうではありません。

インスーは「自身が専門家として見られている」状態を、この場を前進させるためのリソースと捉え、それを利用したのです。

決してインスーが、専門家として知識や経験があるものが、それらが無いものに教えるという態度や意図を持って、子どもたちに接していないことは、動画のこのシーンを観ていただければ感じて頂けると思います。

そして彼女は子ども達に課題を与えます。
課題は「3ヶ月後に改めて会うまで8.5を保つ」というモノです。
この課題の肝は、8.5とは具体的にどういう状態か、そして10はどういう状態かを子ども達自身に考えさせている点です。

この課題により、子ども達は教師からの指示や評価によって行動するのではなく、自分たちで自らの行動を評価し、そして改善するための具体的な行動を考え、そして主体的に行動するようになりました。

この一連のアプローチの根底には、以下の信念があります。
1.人は誰でも自分の人生をより良くするチカラを持っている。
2.その為に一番良い方法を知っているのは、その人自身である。
3.なぜならその人の人生の1番の専門家(理解者)はその人自身であるから。

インスーは相手が例え子どもであっても、現状を改善していくチカラを彼らは持っていると信じていました。
だからこそ、具体的な改善策は子ども達自身に委ねたのです。
そして子ども達はその期待に応えました。もちろん自分たち自身のために。