問題解決でなく、解決構築へVol.5(クライアントの願望の増幅)
本シリーズ企画「問題解決でなく、解決構築へ」は、問題解決思考だけでは解決が困難な現在における様々な問題に対する代替となりうる「解決構築思考」について理解を深めることを目的に、以下の著書の要点をまとめていきます。
なお、この連載で取り上げるのはあくまで要点のみであり、原書にはその事例やより詳しい説明が書かれているため、正確な理解のためには原書をご確認いただきますようお願いいたします。
※本シリーズ企画の目的についての詳細はVol.0をご覧ください。
解決思考アプローチの第一人者であるピーター・ディヤングPeter De Jongとインスー・キム・バーグInsoo Kim Berg著の「解決のための面接技法 ソリューション・フォーカストアプローチの手引き第4版 Interviewing for Solutions 4th Edition
第5章 クライアントの願望の増幅
クライアントと将来について話し合うとき、まず何が違っているかを話してもらってから、次にそれを起こすための手段を考えていく進め方が有効です。つまり、「何がWhat」は「いかにHow」に優先します。
次に、クライアントと「何が違っていて欲しいか」という話しになると、ほとんどのクライアントにとって、具体的な望みを述べる事は難しく、最初は抽象的で漠然とした説明しか出来ません。
そこで、解決構築の援助者が取り組む課題は、クライアントの中傷的で漠然とした説明を、問題が解決した時の具体的で明確なイメージに変える会話を始めることとなります。
それを、ウェルフォームド・ゴールをつくる過程と呼びます。
(Berg & Miller,1992)
ウェルフォームド・ゴールの特徴
1.クライアントにとって重要である
何よりも、目標はクライアントにとって重要なものでなくてはなりません。例え援助者がそれを重要だと思わなくても構いません。
その点を意識し、援助者がクライアントの望みを理解しようとする姿勢をみせると、クライアントは尊重されていると感じ、自尊心を高め、生活を変えようという意欲を高めます。
(de Shazer et al., 2007; Saleebey, 2009)
2.他社との関係の中で示される
クライアントが自分の視点からだけでは、将来の望みについて浮かばない場合に、重要な他社の視点を通して自分を見ることで、いくつかの可能性が生まれます。
3.状況を限定する
全ての状況でうまくいくことでなく、例えばどれか一つの場所や時間や状況においてうまくいってほしいと思っていることを尋ねることも有効です。
4.問題の不在よりも望ましい行動の存在
クライアントは通常、望ましくないことを話すことで、望むことを説明しようとします。
否定的な説明をしていると、失望や無力、行き詰まり感が生じ、自分には難題を取り除くエネルギーがないと思うようになってしまいます。
そこで、例えクライアントが「○○が××しない」という問題を話したとしたら、「問題が解決したとしたら、その代わりに○○は何をすると思いますか?」といった聴き方をすることで、問題と思うことがない状態ではなく、肯定的な何かが存在する形で示されるようになります。
5.最終結果ではなく何かの始まり
多くの場合、相談に来ればすぐさま解決できるというクライアントの考えは現実的ではありません。というのは、解決はたいていクライアントが生活の中で違うやり方で行動し始め、その後の段階を踏まえてはじめて到達できる最終結果だからです。
援助者ができる事は、クライアントがもっと成功の可能性が高い解決策を見つけるのを助けることです。
6.クライアントが自分の役割を認識する
他責になりがちなクライアントに、自分の役割について考えられるようにするために、問題が解決した場合、クライアントにとって重要な人がどんな違った行いをしているか、そしてそのときにクライアントはどう変化していて、その重要な人はどこからそのクライアント自身の変化に気が付くかを尋ねることが有効です。
7.具体的で、行動的で、測定できる言葉となるようにより詳細に聴く
8.現実的な言葉
クライアント自身が述べた望みが、クライアントにとって実現可能かどうか(実現可能性についてクライアント自信の認識)について確認するため、「そうできそうですか?」「そうできるとどういう所から分かりますか?」「過去にうまくいった経験がありますか?」と聞く事で、クライアント自身の長所や過去の成功、実現可能だと思えている根拠が明確になります。
9.クライアントの課題
援助者がクライアントの問題を解決するためには、クライアントの大きな努力が必要だろうと示唆する事は、3つの点からクライアントの尊厳と自尊心を高めることになります。
1.クライアントは、専門家のところに来たのは間違っていなかったと安心します。問題解決に努力が要るとすれば、その問題は難しいものに違いないし、クライアントは専門的援助を受けるにふさわしいと思えるからです。
2.ほとんど進展がない場合や全く進歩がない場合でも、クライアントが敗北感を味あわずに済みます。むしろ、援助者の言葉によってクライアントは「まだ努力が必要なのだ」ということに焦点を合わせられます。
3.クライアントの進歩が早い場合には、短期間に難しい問題を解決できたと自尊心を強めます。
ミラクル・クエスチョン
解決構築では、クライアントの望む未来について一緒につくり出していくため、ミラクル・クエスチョンという質問を用います。
ミラクル・クエスチョンとは以下のような質問です。
これから変わった質問をします。今晩あなたが眠り、家中が寝静まっている間に奇跡が起こるとします。それはあなたがここへいらっしゃることになった問題が解決するという奇跡です。でもあなたは眠っているので奇跡が起こったことを知りません。明日の朝、あなたが目覚める時にどんな違いから、奇跡が起こり、問題が解決したのだと分かるでしょうか。
(de Shazer, 1988, p.5)
ミラクル・クエスチョンが有効な理由は少なくとも二つあります。
1.奇跡を尋ねることによって、クライアントは無限の可能性を考えることが出来ます。
2.現在と過去の問題に向けられていた焦点が、今より満足のいく未来に焦点を当てます。
また、ミラクル・クエスチョンを用いる時の留意点についても以下にまとめます。
1.クライアントに問題思考から解決思考に切り替える余裕を与えるために、柔らかな声でゆっくりと穏やかに話す。
2.解決構築の作業が始まったことをはっきりと劇的に目立たせるために、「今から変わった、妙な質問をします」と断ってから行う。
3.何回も間をとり、クライアントが質問を理解し、自分の経験を違った側面から見るための時間を与える。
4.質問は将来についての描写を求めるので、次のような未来形を使う。
「どんな違いが起こるでしょうか」「奇跡が起こったと分かるしるしはどんなものでしょうか」
5.さらに詳しく知るための質問を続ける中で、解決の話しに移ったことを強調するために「奇跡が起こり、あなたがここへ来ることになって問題が解決したら」という言葉を頻繁に繰り返す。
6.クライアントが問題の話に戻る場合には、奇跡が起こると生活の中で何が違うかということにクライアントの注意を穏やかに向けなおす。