井川ヒロトのブログ

志について探求を続ける 井川 ヒロト が、ニュース・社会・政治・教育・作品(映画、演劇、インプロ、音楽、本、DVD、TV番組・ラジオ)などについて思った事を綴ります。※記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属団体の公式見解ではありません。

問題解決でなく、解決構築へVol.3(知らない姿勢で一歩後ろから導く)

本シリーズ企画「問題解決でなく、解決構築へ」は、問題解決思考だけでは解決が困難な現在における様々な問題に対する代替となりうる「解決構築思考」について理解を深めることを目的に、以下の著書の要点をまとめていきます。

なお、この連載で取り上げるのはあくまで要点のみであり、原書にはその事例やより詳しい説明が書かれているため、正確な理解のためには原書をご確認いただきますようお願いいたします。

※本シリーズ企画の目的についての詳細はVol.0をご覧ください。

 

解決思考アプローチの第一人者であるピーター・ディヤングPeter De Jongとインスー・キム・バーグInsoo Kim Berg著の「解決のための面接技法 ソリューション・フォーカストアプローチの手引き第4版 Interviewing for Solutions 4th Edition

 

 

第3章 知らない姿勢で一歩後ろから導く技法

 

第2章の最後に述べた「クライアントに自分の生活の専門家」になって欲しいのであれば、援助者は自分の思考の枠組みを脇に置き、クライアントの思考の枠組みを探究する方法を知る必要があります。

 

言い換えると「知らないnot knowing」姿勢をとる方法を身につけなければなりません。

 

知らない姿勢とは、援助者が強い、純粋な好奇心をもっていることを伝える態度や行動です。つまり、クライアントの話しをもっと詳しく知りたいという態度と行動を取ることであって、援助者の先入観を持った意見や、クライアント、問題、変化についての予測を伝えることではありません。

従って、援助者はいつもクライアントから「知らされる」状態に身を置くことになります。

(Anderson & Goolishian, 1992, p.29)

 

一歩後ろ

 

本章では、そのための基本的コミュニケーション技法について述べますが、事前に私自身の技法についての考え方を述べておくと(恐らくそれは著者とも一致しているが)、技法とは、誰かを援助する上での「あり方」を体得するための手段であって、技法の実践自体が目的ではありません。

 

この「あり方」について、今後本書を読み進め、自身との対話を深めていくうちに考えは変わるかもしれませんが、現時点での私の考えについて以下の3つにまとめておきます。

 

1.目の前の人のチカラに成りたい

これは、このブログの最初の記事にまとめた通り、他人に対しての無力さを認めた上で、喜びを見つける努力をしたい気持ち

 

2.自分を認める(≒自己一致)

上記1のように考える自分、そんなこと考えたり行動しても損するだけだからって想う自分、損すると分かっていても自分自身でいたいと想う自分。

全部ひっくるめてそんな自分を認める

 

3.信頼

自身と他人を信頼すること

これは、傾聴によるカウンセリング(来談者中心療法)を確立した、カール・ロジャースの言葉が、人と向き合う上でのあり方を表していると思います。

「何が傷ついているか、どこに向かえばいいのか、どの問題が重要なのかを知っているのはクライエントである。

したがって、カウンセラーは自分の賢明さを誇示する必要はなく、クライエントが進んでいくプロセスを信頼すべきである。」

 

 

 

それではこれから解決構築における基本的面接技法について紹介します。

ただし、この章で紹介されている技法は21つと膨大であるため、要点のみを述べます。

前述の通り、原書には実際の活用事例や様々な研究者による研究結果の比較や分析などが記されているため、正確なご理解には原書をご確認ください。

 

【基本的面接技法】

1.クライアントにとって重要な人と事柄を聞き取る

クライアントは、必要な援助について説明する時に、自分にとって重要な人、関係、出来事を話します。そのため、援助者も重要な人物や出来事に注意を集中して聴くことによって、3つの重要な結果が得られます。

i)援助者が、クライアントの指向の枠組みの重要な部分に直ちに気づく

ii)クライアントの話しを評価する傾向を控える

iii)聴き手の観点からの早急な問題解決に走ろうとすることを防ぐ

 

逆を返すと評価的な見方をすることは

聴くと同時に評価する事は容易ではなく、最初に聞いたことを考えながら次の言葉を聞き取ることは難しいため、注意深く相手の話しを聞き取ることが出来ず、短絡的に問題解決へと進みがちになるのです。

 

 

2.可能性のヒントに注目する

クライアントの話す問題の詳細部分だけにのめりこんでしまうと、援助者もクライアントも解決への見通しをもてなくなり落胆してしまいます。

そうならないためには、彼等が変えたいと思っていること、過去の成功、状況の改善のために既に試みたことを彼等の話の中から注意深く聞き取ることです。

 

 

3.質問を組み立てる

質問を効果的に使うためには、ベートーベンのコンチェルトやモダンジャズの曲を芸術的に演奏するのと同じように、練習が必要です。

質問の作成と尋ね方を身につけるためには、次の一般原則を強調することが最も重要です。

 

「次にする質問はクライアントの直前の(または1つ前の)答えから作る。」

 

また、質問は単にクライアントから情報を得るための方法ではなく、多くの場合、質問と応答の過程を通じて質問者と応答者が新しい認識を持ち、未来に対して新しい可能性を持つようになることです。

 

 

4.詳細な情報を得る

クライアントは漠然とした表現や一般化した話し方をすることが多いです。

(例えば「子ども達と前よりもうまくやっています」)

その際に「誰が、何を、いつ、どこで、どうやって」という「whとhow質問」を使い、尋ね、詳細な情報を得ます。

 

ここに「なぜ」という質問が含まれていません。

「なぜ」という質問はクライアントの行動と状況の潜在的原因をクライアント自身に分析させることになり、クライアントが援助者によって問題に対決させられたり裁かれたりするように感じる危険があり、解決構築に有効ではないと分かっているからです。

 

 

5.クライアントのキーワードを繰り返す

キーワードとは、クライアントが自分の経験とその経験に自分が付け加えた意味とを表現するために用いる言葉です。

つまり、援助者がその言葉について知っていたとしても、クライアントがその言葉をどういう意味づけをして使っているは分からないので、「知らない」という感覚でクライアントのキーワードに純粋に関心を持つことが大切です。

 

逆に、援助者が専門用語などで言い換えをしてしまうということは、相手の認識を尊重していないということであり、相手の自身を失わせることにもなります。

 

 

6.クライアントの言葉を組み込む

上記5の通りクライアントのキーワードを繰り返すだけではなく、質問やそのほかの応答にも組み込んでいくことが大切です。

 

 

7.オープン・クエスチョンとクローズド・クエスチョン

援助者はクライアントに対して、「知らない」という姿勢を取り、クライアントに「自分の生活についての専門家」という役割をとってもらうよう意識します。

オープン・クエスチョンはクライアントの態度、思考、感情、認識を尋ねる時に使われる方法であり、解決構築を進める上でそこを意識できていれば有効です。

 

 

8.要約

要約とはクライアントの思考、行動、感情を折に触れて、彼らに伝え直す作業です。

カール・ロジャースは、要約は相手の指向の枠組みの理解を進め、聞きえが話し手の言葉を聴きながら評価する傾向に歯止めを掛けられるため、対話中にいつでも効果があると述べています。

(Rogers, 1961, p.332)

 

 

9.言い換え

言い換えは「内容の反射」と言われることもあり、クライアントが話したばかりのことの本質を彼らにフィードバックすることです。

言い換え(要約も)は援助者がクライアントの話しを本当に聴いていることを示す非常に有効な方法です。

 

 

10.沈黙の活用

多くの場合、沈黙はクライアントが自分で答えを出すチカラを発揮するために有効です。

 

 

11.臨床家の非言語行動

クライアントはほとんど例外なく、(特に面接開始時に)援助者が注意深く、敬意を持って聞いているかに敏感で、その結論を出しています。それには、多くの文献で、面接者の非言語行動が影響を与えると強調されています。

 

ただし、本著者の結論としては、非言語行動は間違いなく重要であるが、聞くべきことを聞き、それについて質問することの方がさらに重要であり、その意識と実践の中で、適切な非言語行動もそれと一体化されると述べられています。

 

 

12.クライアントの非言語行動に注目する

援助者の質問や関わりが、クライアントにとっての重要な人物と事柄を組み込めているかを確認する上で、非言語行動に注目する事は役に立ちます。

もしクライアントの思考とズレてしまっている際には、次の質問によって軌道修正を図ることができます。

 

「この面接の終わりに、話し合ってよかったとあなたが言えるためには何が違う必要がありますか。」

 

 

13.自己開示

本書では、援助者が自身の経験をクライアントに話すことを勧めてはいません。それは、「クライアントと同様の悲劇を経験した援助者が最も有効な援助ができる」という疑わしい仮説に基づいていると考えているからです。

 

あくまで、自己開示はクライアントの話した内容についての援助者の認識を伝える手段として用いるべきだとしています。

 

 

14.コンプリメント(賞賛・ねぎらい

クライアントの個人的資質と過去の経験をうまく引き出し、クライアントがそれに気づくこと(=コンプリメンと)ができれば、困難を解決し、満足のいく生活をつくるのに役立ちます。

コンプリメンとの第一の目標は、クライアントが率直にコンプリメントを受け入れることではなく、クライアントが自分の肯定的変化、長所、資源に気づくことです。

そのため、援助者がクライアントに親切にしたいという気持ちでコンプリメントをしてはいけません。クライアントが言葉と非言語行動を通して伝えたことから導かれる現実に根ざしたものをもって行う必要があります。

 

 

15.クライアントの見方の肯定

クライアントの認識を探求し、彼らが話したままの認識を尊重して肯定することです。

これは必ずしも「感情」に焦点を当て、認めることではなく、もっと全体的なクライアントの「認識」についての見方をさします。

 

 

16.自然な共感

「同情」はsympathy(シンパシー)と訳し、「共感」はEmpathy(エンパシー)と訳すと捉えやすいです。同情は相手と同じ感情や関心を持つことで、共感は自分を持ちつつ「まるで」自分自身のように相手の世界を感じることだとカール・ロジャーズは説明しています。(Rogers, 1957, p.99)

 

ただし本書では、

「クライアントと協力関係を作るためには、感情について特別な会話を取り出す必要はない」

と述べられ感傷や否定的感情を強めるような共感(例えば「今あなたはずいぶん落ち込んでいますね」といった、感情の反映の例で、一般的な傾聴の教科書に載っている言葉)は、ますますその方向に落ち込ませるだけで、よい変化を生み出すことはないとしています。

 

 

17.ノーマライズする

クライアントのプロブレム・トークを聞いて、それが特別な状況ではなく、その問題が普通の生活でも(一般的にも)起こるのではないかとクライアントと考えることです。

 

 

18.クライアントに焦点を戻す

クライアントの認識を傾聴し、それを尊重しつつ、他の人や現状の好ましくないこと(プロブレム・トーク)ではなく、現状をどう変えたいのか、自分が解決にどう関わるのか(ソリューション・トーク)に焦点を移せるようチカラを貸すことです。

 

 

19.クライアントにとっての意味を探す

解決構築に最も役立つのは、問題ではなく過去の成功と将来の可能性に関わる彼等の意味づけです。

クライアントにその人なりの意味を考えさせ、作らせるために、通常2つの知らない姿勢の質問が使われます。

1つ目は、クライアントがこれまでに行ったことや、これからって見ようと考えていることが役立ったり助けになったりするか尋ねることです。

2つ目は、クライアントの成功と可能性に関わる意味だけでなく、相互作用的な意味を尋ねることです。(例「上司にそのように話そうと決めたことで、あなたと上司の間で何が違ってくるでしょうか」)

 

 

20.関係性の質問

人の生活の大部分は他者との相互関係で成り立っており、しかもその他社の多くがその人にとってとても大事な人たちです。

そのため、「問題が解決したらあなたと○○さんの間で何が違っていますか」といった関係性に関する相互作用について質問する事は解決を増幅させる主な方法です。

 

 

21.ソリューション・トークを増幅する

プロブレム・トークからソリューション・トークへの転換点を見逃さず、生活がどう違って欲しいか、またどうしたらそうなるかを詳しく話すように促すことです。

 

 

 

以上、長くなりましたが、解決構築における21技法を紹介しました。

最後に、解決思考面接における、クライアントとの共同的対話プロセスの考え方について説明します。

 

カール・ロジャーズは、援助者の用いるクライアントへの対応を「反射」としましたが、解決構築では「聞き、選択し、構築する」という言葉を使います。

聞く:クライアントの発言を慎重に聞き取り、一つ一つの発言中の解決指向の可能性のヒントに気づくこと。

 

選択する:気づいた可能性の中から、面接のその時点で最も役に立つと思われることを選び出すこと。

 

構築する:クライアントを解決指向の方向に導く言い換えまたは質問を組み立てること。