本シリーズ企画「問題解決でなく、解決構築へ」は、問題解決思考だけでは解決が困難な現在における様々な問題に対する代替となりうる「解決構築思考」について理解を深めることを目的に、以下の著書の要点をまとめていきます。
なお、この連載で取り上げるのはあくまで要点のみであり、原書にはその事例やより詳しい説明が書かれているため、正確な理解のためには原書をご確認いただきますようお願いいたします。
※本シリーズ企画の目的についての詳細はVol.0をご覧ください。
解決思考アプローチの第一人者であるピーター・ディヤングPeter De Jongとインスー・キム・バーグInsoo Kim Berg著の「解決のための面接技法 ソリューション・フォーカストアプローチの手引き第4版 Interviewing for Solutions 4th Edition
第2章 解決構築の基本
解決への扉に通じる最も有効な方法は、問題が解決されたときに、クライアントがどんな違う行動をしているか、どのような違ったことが起きるかのイメージを手に入れることであり、有益な変化を予想することなのだ。
(de Shazer, 1985,p.46)
解決構築の面接は大きく2つの活動にまとめられます。
1.クライアントの思考の枠組みを下に、ウェルフォームド・ゴール(十分に練り上げあられた現実性のある目標)を作り出すこと
2.例外をもとに解決を作り出すこと
上記1で取り上げた、ウェルフォームド・ゴールには、4つの特徴があります。
クライアントにとって、そのゴール(目標)は、
i)重要で
ii)小さく
iii)具体的で
iv)何かの終わりではなく、違うことの始まりであること
上記2で取り上げた「例外」とは、クライアントの生活の中で、問題が起きて当然ながらも問題が起こらなかったり、問題の程度が深刻ではなかったりする状況をさします。
解決構築の臨床家(援助者)は、この例外の情報をもとに、クライアントが問題を解決したり改善したりするための方策をひねり出すよう援助します。
つまり、解決構築アプローチでは、問題解決アプローチのように問題に関わる誰が、何を、いつ、どこで、なぜを、探求しません。
解決構築では、例外の状況について、誰が、何を、いつ、どこで、を知ることに焦点を合わせます。
解決構築アプローチでは、原因を一般化して、専門的な知識から解決策を導き出そうとするのではなく、クライアントの例外というリソースの中から、ゴールに向かうための具体的な行動を共に考えるのです。
<解決構築の諸段階>
第1章では、問題思考の諸段階を説明しましたが、対比しやすいよう解決構築思考の諸段階について紹介します。
1.問題の描写
最初にクライアントが問題や心配事を説明するという点では、問題解決と解決構築の両者は共通しています。
しかし、解決構築の場合、問題解決アプローチほどこの段階に時間と労力を費やしません。
問題の性質や程度については詳しく尋ねず、問題の原因についても質問しません。
その代わりに、クライアントの問題の説明を丁寧に聞き、会話を次の段階、つまり解決の話に向けることを考えます。
2.ウェルフォームド・ゴールを作る
問題が解決した時に、生活の中で違っていることについての話しをクライアントから引き出し話してもらいます。問題解決思考の支援者であれば、アセスメントをする段階ですが、解決構築思考ではクライアントとこの作業に取り組みます。
3.例外を探す
クライアントの生活の中で問題が起こっていないとき、またはあまり深刻でない時について尋ねます。誰が何をして例外が起きたのかについても質問します。
問題解決アプローチでは介入を作る段階です。
4.面接の終わりのフィードバック
解決構築では面接のたびごとに終了時にクライアントへのメッセージを伝えます。
その中には、必ずコンプリメント(賞賛・ねぎらい)があり、提案が含まれることもあります。
コンプリメントでは、問題を解決しようとしてクライアントが既に実行している有効なこと(例外)を取り上げて伝えます。
提案では、クライアントが解決作りを進めるために観察したり、行動したりすることを明示します。
クライアントの思考の枠組みを尊重しながら、目標達成に向けてうまくやれる機会を増やすために、彼等がそのまま続けることと変更することとに焦点を合わせます。
問題解決思考であれば、介入を行うこの段階で、フィードバックを作成し、伝えます。
5.クライアントの進歩を評価する
クライアントが満足する解決にどれほど近づいているかをクライアントと共に繰り返し評価します。これはスケーリング(0から10のメモリでクライアントに進歩を評価させる)によって行います。クライアントの評価に対し、さらに何をしていく必要があるのかについて両者で検討をします。
<クライアントは専門家である>
第1章で述べたように、援助専門家は従来、問題や解決についての蓄積された科学的知識という専門性を頼りにしてクライアントと関わってきました。
そのような専門性への依存の結果、援助分野の臨床家達は問題や解決についての自分達の認識がクライアントの認識より重要であると思い込んできました。
事実、専門書は、クライアントの認識はしばしば専門家の臨床の妨げとなり、臨床家がが克服せねばならないクライアントの抵抗のもとになると述べています。
対照的に解決構築では、クライアントが彼等の生活の専門家であると強調します。
クライアントの問題を、科学的に査定し介入するのではなく、クライアントが満足できる生活にしていくために使える認識を引き出す専門家でありたいと考えるのです。