井川ヒロトのブログ

志について探求を続ける 井川 ヒロト が、ニュース・社会・政治・教育・作品(映画、演劇、インプロ、音楽、本、DVD、TV番組・ラジオ)などについて思った事を綴ります。※記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属団体の公式見解ではありません。

きずつくということ

きずつくということ

赤150

生きていると、きずつくことはあるわけで。

自身がきずつくこともあるし、きずついている人に出会うこともある。

きずつくことは、辛い。

つらい。

つらい。。

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・・・・・・

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でも、だからこそ、私は、きずつく事の意味を考えたい。

もしもそこに意味がないのであれば、辛すぎるから。悲しすぎるから。

このことを考える時、僕にとっての道しるべは、作家の大江健三郎さんがラジオ番組「伊集院光日曜日の秘密基地」にゲストでご出演された際に仰っていたこの言葉だ。

表現ってものがあるから、人間は他の人を理解するし、他の人に理解される。あるいは共感を持ったりする。そして、表現の一番の根本にあるものが、「共感する」っていうこと。だから、共感することがはっきりできる、そして自分としてしっかり立てる子どもや大人が育っていくことが、僕等の社会の希望だと私は思っています。」(語尾と接続詞は若干文体に直しています)

大江健三郎さんは言わずもがな、ノーベル文学賞を受賞された大作家であり、日本でも有数の表現者だ。

そして大江さんは、表現を通して、読者に「共感」してもらうことを目指していて、もちろんそれができているからこそ、高い評価を得ている。

大江 健三郎「晩年様式集 イン・レイト・スタイル(講談社)」

確かに私たちは、映画だろうと小説であろうと、良い作品に出会うと、感動をして笑い、震え、時には涙を流す。

この感動の根本は何か、それは「共感」だ。

「同情」という言葉も、実はそれに近い。

「同情」という言葉を、正しく使えている人は少ない。

例えば、東日本大震災の被災者の方の中には、当時から、そして今もなお苦境にたたされている人たちがいる。

こうした方々に対して「大変でしたね(ですね)」「元気出してください」と声をかけることは同情なのだろうか。否である。それは、慰めであって、同情ではない。

同情とは、「もし自分が相手の立場だったら」と考えることだ。

もちろん、相手の想いを全て感じ、理解することはできない。

できるのは「自分なりに」理解することだけだ。

こうして、相手の立場に思考を置いて同情をし、自分なりに相手を理解しようとする。そして、自分なりに心を震わせる。それが共感ということだ。

では、この共感は誰にでもできるかというと、実際には難しい。

相手の想いに触れることができる心のヒダがないと、想いをすくい取れないからだ。

では、そのヒダはどうやって心に生み出されるのか?

それは、「経験」をしていくということにつきる。

ただ、世の中で起こるすべての事を実体験で経験することはできないので、我々は、大江健三郎さんをはじめ、さまざまな表現者が本気で表現する際に持つ、「相手を共感させるチカラ」で、疑似体験から経験を得るのである。

その必要性から、我々は文学を、演劇を、絵画を、そして無数に存在する表現を「文化」としている。

いつもの悪い癖で、前置きが長くなった。

きずつくという事の意味は、同じようにきずついている人に共感をすることができる、心のヒダを持つことができることだと思う。

きずついた事のない人間は、傷ついている人の痛みを理解することはできないのだから。

単に弱いやつ、空気読めないやつ、バカなやつ、運のないやつ、クソ、阿呆共、使えないやつ、頭おかしいやつ、死んだほうがいいやつ・・・

きずついた痛みを知らないやつは、そんな風にしか感じれないクソみたいなやつだ。

最後に、またまたTBSラジオ番組「伊集院光日曜日の秘密基地」(放送終了)での、伊集院光さんと電気グルーヴピエール瀧さんのこのトークで締めたい。

平成18年に発表された、「全然伝わらない」と話題になった、伊吹元文部科学大臣から発表された、「「文部科学大臣からのお願い」未来のある君たちへ」を受けて、ピエール瀧さんが高校時代の話しを始める。

電気グルーヴでの活動や、ラジオでの瀧さんのトークからはまったく想像できないが、高校時代に瀧さんは孤立していたそうである。今の瀧さんを見ると、例え孤立をしても、気にしないタイプに見えるが、心の葛藤があったようだ。あったからこその、今なのだと思わされた。

そんな話の流れから、話しはいじめ問題へ展開する。

瀧さん「巷で昨今のいじめ問題とかあるじゃないですか、いじめるやつ、いじめられるやつって話し。そいつ等に言いたい。お前等将来伸びるから今死んじゃだめ。」

伊集院さん「あのほんとに青臭い事じゃなくて、その一瞬お前等敵に囲まれたと思うけど、その外側にもっとすっごい色んなことあるから」

瀧さん「今受けたその酷い体験は、今のお前にとっては受け入れがたいかもしれないが、お前その経験をしとくと将来伸びるから、今死ぬな。伸びるから」

伊集院さん「お前等びっくりするだろうけど、今お前の周りにいる30人全員敵だろ?だけどその周りに300人味方がいて、その周りの3000人が全員敵になる瞬間があって、30000人が急に味方する時があるから、その一層だけで判断するなっていうね。この歳になると、そんなことも言えるようになるんだよね。だからみんなね、変な話だけどね、無駄に生きたほうが良いよ。無駄に生きると一瞬一瞬あっから」

電気グルーヴ「人間と動物」

伊集院 光「ファミ通と僕(エンターブレイン )」

樋口 裕一「絶望の中で自分に言い聞かせた50の言葉(草思社)」