井川ヒロトのブログ

志について探求を続ける 井川 ヒロト が、ニュース・社会・政治・教育・作品(映画、演劇、インプロ、音楽、本、DVD、TV番組・ラジオ)などについて思った事を綴ります。※記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属団体の公式見解ではありません。

池上彰に対する。円高の功罪

(2010-12-15はてなダイアリーブログ掲載記事を加筆修正)

コインにだって表と裏がある

ここのところ、池上彰さん関連の記事ばかり書いているので、「池上彰についてのブログ」なのか!?という感じになってしまっていますが、乗りかかった船ですので(自分で出航したのですが・・・)もう一つ。

何週か前の(恐らく2010年11月24日放送分)、テレビ朝日系TV番組「そうだったのか!池上彰の学べるニュース」円高についての説明を池上彰さんがしていた。

いつも通り(週間こどもニュースも好きでよく観てた)とても分かりやすく説明されていたが。

円高のデメリットは確かにあると思うし、円高が必ずしも良い思っているわけではないが、今回の池上さんの説明では、円高のデメリットにしか焦点を当てていなく、偏った内容になっていたので、そのメリットとチャンスについても考えてみたい。

まず、池上彰さんの説明内容(円高のデメリット)をざっくり説明する。(思い出しながらだし、自分の見解も少しまじるかも)

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世界の通貨の価値は国の信用によって決まる。

その信用は、政策や経済など様々な要因によって相対的に決まる。

その為、政策や経済の状態が良い国は信用度が高く、その国の通貨は多くの国の人に買われるため、価値が上がる。

つまり(日本で言えば)円高になり、反対に政策や経済の状態が悪い国は信用度が低く、その国の通貨の価値は下がる。つまり(日本で言えば)円安になる。

では、現在の日本の円高は、日本の政策や経済の状態が良いから円高になっているのだろうか?そうではない。

まず、サブプライムローンが原因のリーマンショックによってアメリカのバブルが崩壊し、米ドルの信用度が下がった。そこで世界通貨を買っている人は、EUのユーロを買おうとしたが、今度はギリシャが破綻して、EU各国がギリシャを保護するために財政難に陥るギリシャ危機が起こり、ユーロの信用度が下がった。

だから日本の政策や経済状態が良いから円高になっているのではなく、世界の中で一定の信用度がある国の通貨の中で、相対的に見て他の通貨の信用度が下がったために円高になったのである。(つまり、「円高」というより「ドル安」、「ユーロ安」の状態。)

円高になると、外国に商品を輸出している企業は、外国の人たちからすると高くなってしまうので、思うようにモノが売れなくなってしまう。結果として不況になり、賃金が下がる人や失業してしまう人が増えてしまう。

そこで、日本政府と日本銀行は6年ぶりに為替介入を実施し、円安を図っている。

しかし、日本政府一国が為替介入(単独介入)を行っても、効果は限定的であるので、世界の国々に協力を呼び掛けて一斉に為替介入を行う(協調介入)をすべきだが、世界の国々を巻き込む影響力が不足していて、難しい状態である。

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とこんな感じの説明だった。

ずいぶん前置きが長くなってしまったが、円高のデメリットとされている点への実数からみた疑問点と、円高のメリットについても考えてみたい。

まず、円高のデメリットとして良く言われる「日本の基幹産業の一つである自動車が売れなくなる」について。

日本自動車工業会が発表している、2009年と2010年の自動車出荷台数(輸出のみを抽出。あえて生産台数ではなく、出荷台数を抽出した)を見て欲しい。

普通4輪車輸出出荷台数

日本自動車工業会

円が100円を割り、「円高」が問題視されてきたのは2009年に入ってからだが、2010年になりさらに円高が進んだ。そこで、上記表の通り昨年と今年の普通4輪車輸出出荷台数を比べると、軒並み増加している。

このことから、「円高だから車が売れない」と単純に主張している人の意見は誤りであることが分かる。

皆さんもこれからは「円高だから車が売れない」とテレビなどで声高に話している人がいたら、疑って見た方が良いかもしれない。

次に、円高のメリットとチャンスについて考えてみたい。

メリットは、消費者の目線で見ると、デフレで安くモノが手に入っている恩恵に我々も与っている通り、海外のモノが安く手に入ること。(要は、給料が上がらなくても、下がっていなければ、給料の価値が実質上がっている。)

企業の面で見ると、輸入をしている企業は今までよりも利益率が上がり、高い収益を上げることができる。

そしてチャンスについて。一般的にピンチとされていることについて、チャンスに変える発想を持つことが大事だと私は思う。そう考えたとき、この世界の環境がもたらした円高という状況は、今、日本が世界に対して積極的に投資をするチャンスなのではないだろうか。

世界にある有望な企業へM&Aを図ったり、各国へ拠点を作ったりして、世界から人、モノ、金、情報という資源を手に入れ、日本が飛躍するための重要なファクターを得る格好のチャンスなのではないだろうか。

(これについては、ソフトバンクやミスミが2012年に入り実際に行っている)

日経「ソフトバンク、成長維持へ大きな賭け 2兆円買収」

ミスミ 米国金型部品メーカー最大手の Dayton 社などを総額約2億ドルで買収

これが、池上彰さんが番組にて説明したことに対する私の意見である。

テレビ番組は時間的な制約があり、説明がしきれないという事情はあると思うが、池上彰さんの様に世論にも大いに影響力のある方には是非、一面的にならない説明をより心がけていただきたいと思う。

池上 彰「池上彰のやさしい経済学―1 しくみがわかる(日本経済新聞出版社)」

池上 彰「池上彰のやさしい経済学―2 ニュースがわかる(日本経済新聞出版社)」