本シリーズ企画「問題解決でなく、解決構築へ」は、問題解決思考だけでは解決が困難な現在における様々な問題に対する代替となりうる「解決構築思考」について理解を深めることを目的に、以下の著書の要点をまとめていきます。
なお、この連載で取り上げるのはあくまで要点のみであり、原書にはその事例やより詳しい説明が書かれているため、正確な理解のためには原書をご確認いただきますようお願いいたします。
※本シリーズ企画の目的についての詳細はVol.0をご覧ください。
解決思考アプローチの第一人者であるピーター・ディヤングPeter De Jongとインスー・キム・バーグInsoo Kim Berg著の「解決のための面接技法 ソリューション・フォーカストアプローチの手引き第4版 Interviewing for Solutions 4th Edition
最終章 解決構築のまとめ~
これまで、「解決構築思考」について上記著書の内容を中心に、要点をまとめてきました。
本書は第8章以降、2回目以降の面接、不本意な状況のクライアントとどう話すか、危機状況での面接、科学的根拠、援助職の価値観と人間の多様性、相談機関・グループ・組織での実践、適用例、解決構築過程の理論的な意味について言及が続きますが、解決構築に関しての一定の要点をまとめることができたため、一旦本ブログではまとめをしておきたいと思います。
【解決構築面接のための要点メモ】
・初めに面接の流れを説明する(話を聞く、休憩を取ってその後にフィードバックを与えることを伝える)
・問題の説明を聞く(今日私がどんなふうにあなたの役に立つことを望んでいましたか、こんなことで困っていますか、どんなことを試してみましたか)
・目標づくり(ここで話をしてよかったとここで言えるためには、今日の面接の結果として何が変わらなければならないでしょうか。)
・ミラクルクエスチョン
・解決に向けて進む(スケーリングクエスチョン)
・結び
【ウェルフォームド・ゴールを作るための質問メモ】
援助者が考えるべき前提
奇跡が起きたり、問題が解決したりしたら何が違ってくるとクライアントが考えているのかを探し出そうとしていることを覚えておいてほしい。また、クライアントにとってウェルフォームド・ゴールを作り上げていくことは大変な作業であることを忘れず、忍耐強く、粘り強く質問を続けること。
<ミラクルクエスチョン>
今晩あなたが眠っている間に奇跡が起こるとします。今日あなたがここへ相談に来られた問題が解決するという奇跡が起きるのです。ただ、あなたは眠っているので、問題が解決したことを知りません。明日の朝あなたは、どんな違いから奇跡がおこったことに気づくでしょうか。他に何人気づくでしょうか。
<ウェルフォームドゴールの特長を増幅させる>
・小さい事を、きちんと相手に返す
・具体的で、行動的で、明確なものに焦点を当てる。
・奇跡が起こると問題が起こることの代わりに、大切な人あるいはあなた自身は何をしているでしょうか。
・重要な他者の認識に関して認識を膨らませる。(あなたの子どもはあなたのどんな違いに気づくでしょうか)
<そのほかのヒント>
・クライアントは「わからない」といったら
→わかったとしたら、どういうでしょうか?
→(クライアントにとって大事な人)はどう言うでしょうか?
→難しい質問をしています。ゆっくり時間をかけてください
【フィードバックを創るための計画書】
・クライアントは何を求めているか、それは何か
・ウェルフォームドゴールはあるか、それは何か
・例外はあるか、どんな例外か
・ある場合には、それは意図的な例外化、偶然の例外か
・コンプリメント→ブリッジ→提案
【初回面接の計画書】
クライアント名: 年月日:
・クライアントの心配/経過
(どのようにお役にたてるでしょうか。どんなことから●●が問題なのでしょうか。どんなことを試してみましたか。何が役に立ちましたか)
・ゴールの設定
(帰るとき何が違っていてほしいですか。ミラクルクエスチョンについての対話)
・例外
(その問題が起こらなかったとき、またはそれほど深刻でなかったときがありますか。それはいつですか。どうやってそうなりましたか。)
・スケーリング
(どのくらいミラクルに近づいているか、面接前の変化、取り組みへの意欲、自身)
・コンプリメント
・ブリッジ
・提案
・次回について
【例外探し】
①例外を探す
②例外を増幅する(最近そうしたことは少しでも起こったことはありませんでしたか?その時のことをもっと話してください。)
③強化する(非言語的、非言語的に)
④どうやって例外が起こったのかを探る(それが起こるためにあなたは何をしたのですか?どうやって思いついたのですか?あなたはいつもこうした難しい状況で、このようにどうすべきか思いつくんですか?)
⑤例外を将来に起こす(来週にその例外が起こる可能性は、1から10の可能性ですとどのくらいありますか。それが起こるためにはどうしたらよいでしょうか?)
【コーピング・クエスチョン】
・どうやって今朝、ベッドから起きることができたのですか。
・最後に食事をしたのは何時間前ですか。
・最後にいくらか眠れたのはいつですか。
・○○が役に立つだろうとどうやって分かったのですか。
・○○に援助してもらうために、あなたは何をしましたか。
最後に
本連載では、世の中には問題解決思考で溢れているため、どちらかというとあえて問題解決思考についてやや批判的に書いてきました。
ただ、私としては問題解決思考が有益であると理解しています。
そのため、改めてはっきり書くと、問題解決思考は有効ですし、有益です。
ただ、モノを扱うのと同じように、対「人間の心」と向き合う際に、それだけでは理解し得ない、解決し得ないことがあるということについて表現をしたかったと同時に、その具体的な方法であるSFA(ソリューション・フォーカスド・アプローチ)について紹介をすることによって、解決構築思考を少しでも世に広げていきたいという思いをもち、本連載を始めました。
そういった思いもあり、本連載では問題解決思考と解決構築思考の対比から始めましたので、締めも最近SFAの研修で習った対比の言葉を綴りたいと思います。
問題解決思考では、クライアントを見ているようで、実は理論を見ています。
クライアントの症状をみて、理論と照らしながら、アセスメント(評価)を行い、適切な処置方法について想いをめぐらせているのです。この辺りは、第一章でも具体例を交えながら述べました。
スーツ屋さんで例えると、問題解決思考の援助者はクライアントにスーツを着せます。着せてみると右手の袖だけ短いことが分かります。
そこでスーツ屋はお客に対してこう伝えます。
「右腕を少し曲げてみてください。そうすれば袖はぴったりと合いますよ」
今度はスーツ屋はお客にズボンを履かせます。
すると左足だけ長いことが分かります。すると
「左足を上げ手管際。そうすれば裾はぴったりとした長さになりますよ」
これで両手両足の長さはお客にぴったりと合ったので、買ってもらおう。
問題解決アプローチで、理論をクライアントに合わせようとする行為は、言ってみればこのスーツ屋さんのような行為です。
第3章の最後で述べた通り、一定レベルのカウンセラーであれば、カウンセラー中心の質問(カウンセラーが聞きたい事を聴く)ですが、クライアント中心(クライアントが話したいことを聴く)ができます。
とはいえ、我々援助者は、常にクライアントの言葉を選び出して、クライアントに対して言語的・非言語的に反射をしています。
その事実に謙虚に向き合い、クライアント自身のチカらを信じて、理論ではなくクライアント自身の持っている言葉からクライアントの次の一歩となる具体的なゴールを一緒に見つけること。
そうした姿勢で相手の心に臨む意義について、少しでも感じていただけたらとても嬉しいです。