井川ヒロトのブログ

志について探求を続ける 井川 ヒロト が、ニュース・社会・政治・教育・作品(映画、演劇、インプロ、音楽、本、DVD、TV番組・ラジオ)などについて思った事を綴ります。※記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属団体の公式見解ではありません。

問題解決でなく、解決構築へVol.6(例外の探究)

本シリーズ企画「問題解決でなく、解決構築へ」は、問題解決思考だけでは解決が困難な現在における様々な問題に対する代替となりうる「解決構築思考」について理解を深めることを目的に、以下の著書の要点をまとめていきます。

なお、この連載で取り上げるのはあくまで要点のみであり、原書にはその事例やより詳しい説明が書かれているため、正確な理解のためには原書をご確認いただきますようお願いいたします。

※本シリーズ企画の目的についての詳細はVol.0をご覧ください。

 

解決思考アプローチの第一人者であるピーター・ディヤングPeter De Jongとインスー・キム・バーグInsoo Kim Berg著の「解決のための面接技法 ソリューション・フォーカストアプローチの手引き第4版 Interviewing for Solutions 4th Edition

 

 

第6章 例外の探究~クライアントの長所と成功体験をもとにした解決構築~

 

よいことに焦点を合わせるとよい日になり、悪いことに焦点を合わせると悪い日になる。

問題に焦点を合わせるならば問題は増え、解決策に焦点を合わせるならば解決策が増える。

Alcoholics Anonymous, 1976, p.451)

 

水の入ったコップ

 

 

例外とは、クライアントの生活の中で当然問題が起こると思われるときに、どういうわけかそうならなかった過去の経験を指します(de Shazer, 1985)。

例えば、不平を言って皿洗いを手伝おうとしない子どもが、最初の5分間は不平を言った後に、いくらかでも皿を洗ったとしたら、それが例外です。

 

 

まさに、何度か例で挙げている、水の入ったコップの内、水の入っていない方(問題)を見るのではなく、(たとえ量は少なかったとしても)入っている水の方を見るという感覚です。

 

 

具体的にできる質問としては「ここ2,3週間のうちに問題が起きなかったり少しましだったりしましたか」と聞くことができます。「2,3週間」や「最近」の話を聞くことで、クライアントは詳しく思い出すことができたり、また起こりそうだと思うことができます。

 

 

もしクライアントが例外に気づいたならば、その例外が問題の時とどのように違うのかに特に注意して尋ねます。

 

問題解決思考の面接者はクライアントの「問題」について誰が、何を、いつ、どこでという事を探っていくのに対し、解決構築思考の面接者は例外について誰が、何を、いつ、どこでということを探っていきます。

 

 

その際、クライアントがその例外が起きた理由を述べることができたらそれは「意図的な例外」であり、たまたまの偶然だといったとしたら「偶然の例外」です。

 

「意図的な例外」であれば、クライアントが抱えている問題を、その例外を広げていくことで改善できるヒントがあるかもしれないため、そこに注目していきます。

 

 

また、例外を探していく中で、クライアントの長所と成功体験を見つかることが多いため、例えクライアントが例外を過小評価したとしても、その例外を聞き逃さず、言い換えて肯定する(褒めるのではなく例外としてできている事実を認める)ことは、クライアントに自身の可能性を感じてもらうために有効です。

 

 

この章のポイント

●繰り返し例外を探す質問を尋ねる習慣をつけること

 

●クライアントが例外を過小評価しても、その例外を聞き逃さないこと

 

●例外の時が問題の時とどう違っているかを尋ねること

 

●例外を起こすために誰が何をしているかを見つけること

 

●例外に示されたクライアントの長所と成功を強調して言い換え、肯定すること

問題解決でなく、解決構築へVol.5(クライアントの願望の増幅)

本シリーズ企画「問題解決でなく、解決構築へ」は、問題解決思考だけでは解決が困難な現在における様々な問題に対する代替となりうる「解決構築思考」について理解を深めることを目的に、以下の著書の要点をまとめていきます。

なお、この連載で取り上げるのはあくまで要点のみであり、原書にはその事例やより詳しい説明が書かれているため、正確な理解のためには原書をご確認いただきますようお願いいたします。

※本シリーズ企画の目的についての詳細はVol.0をご覧ください。

 

解決思考アプローチの第一人者であるピーター・ディヤングPeter De Jongとインスー・キム・バーグInsoo Kim Berg著の「解決のための面接技法 ソリューション・フォーカストアプローチの手引き第4版 Interviewing for Solutions 4th Edition

 

 

第5章 クライアントの願望の増幅

 

クライアントと将来について話し合うとき、まず何が違っているかを話してもらってから、次にそれを起こすための手段を考えていく進め方が有効です。つまり、「何がWhat」は「いかにHow」に優先します。

 

次に、クライアントと「何が違っていて欲しいか」という話しになると、ほとんどのクライアントにとって、具体的な望みを述べる事は難しく、最初は抽象的で漠然とした説明しか出来ません。

 

そこで、解決構築の援助者が取り組む課題は、クライアントの中傷的で漠然とした説明を、問題が解決した時の具体的で明確なイメージに変える会話を始めることとなります。

 

それを、ウェルフォームド・ゴールをつくる過程と呼びます。

(Berg & Miller,1992)

 

希望

 

 

ウェルフォームド・ゴールの特徴

 

1.クライアントにとって重要である

何よりも、目標はクライアントにとって重要なものでなくてはなりません。例え援助者がそれを重要だと思わなくても構いません。

 

その点を意識し、援助者がクライアントの望みを理解しようとする姿勢をみせると、クライアントは尊重されていると感じ、自尊心を高め、生活を変えようという意欲を高めます。

(de Shazer et al., 2007; Saleebey, 2009)

 

2.他社との関係の中で示される

クライアントが自分の視点からだけでは、将来の望みについて浮かばない場合に、重要な他社の視点を通して自分を見ることで、いくつかの可能性が生まれます。

 

3.状況を限定する

全ての状況でうまくいくことでなく、例えばどれか一つの場所や時間や状況においてうまくいってほしいと思っていることを尋ねることも有効です。

 

4.問題の不在よりも望ましい行動の存在

クライアントは通常、望ましくないことを話すことで、望むことを説明しようとします。

否定的な説明をしていると、失望や無力、行き詰まり感が生じ、自分には難題を取り除くエネルギーがないと思うようになってしまいます。

 

そこで、例えクライアントが「○○が××しない」という問題を話したとしたら、「問題が解決したとしたら、その代わりに○○は何をすると思いますか?」といった聴き方をすることで、問題と思うことがない状態ではなく、肯定的な何かが存在する形で示されるようになります。

 

5.最終結果ではなく何かの始まり

多くの場合、相談に来ればすぐさま解決できるというクライアントの考えは現実的ではありません。というのは、解決はたいていクライアントが生活の中で違うやり方で行動し始め、その後の段階を踏まえてはじめて到達できる最終結果だからです。

援助者ができる事は、クライアントがもっと成功の可能性が高い解決策を見つけるのを助けることです。

 

6.クライアントが自分の役割を認識する

他責になりがちなクライアントに、自分の役割について考えられるようにするために、問題が解決した場合、クライアントにとって重要な人がどんな違った行いをしているか、そしてそのときにクライアントはどう変化していて、その重要な人はどこからそのクライアント自身の変化に気が付くかを尋ねることが有効です。

 

7.具体的で、行動的で、測定できる言葉となるようにより詳細に聴く

 

8.現実的な言葉

クライアント自身が述べた望みが、クライアントにとって実現可能かどうか(実現可能性についてクライアント自信の認識)について確認するため、「そうできそうですか?」「そうできるとどういう所から分かりますか?」「過去にうまくいった経験がありますか?」と聞く事で、クライアント自身の長所や過去の成功、実現可能だと思えている根拠が明確になります。

 

9.クライアントの課題

援助者がクライアントの問題を解決するためには、クライアントの大きな努力が必要だろうと示唆する事は、3つの点からクライアントの尊厳と自尊心を高めることになります。

 

1.クライアントは、専門家のところに来たのは間違っていなかったと安心します。問題解決に努力が要るとすれば、その問題は難しいものに違いないし、クライアントは専門的援助を受けるにふさわしいと思えるからです。

 

2.ほとんど進展がない場合や全く進歩がない場合でも、クライアントが敗北感を味あわずに済みます。むしろ、援助者の言葉によってクライアントは「まだ努力が必要なのだ」ということに焦点を合わせられます。

 

3.クライアントの進歩が早い場合には、短期間に難しい問題を解決できたと自尊心を強めます。

 

 

ミラクル・クエスチョン

解決構築では、クライアントの望む未来について一緒につくり出していくため、ミラクル・クエスチョンという質問を用います。

ミラクル・クエスチョンとは以下のような質問です。

 

これから変わった質問をします。今晩あなたが眠り、家中が寝静まっている間に奇跡が起こるとします。それはあなたがここへいらっしゃることになった問題が解決するという奇跡です。でもあなたは眠っているので奇跡が起こったことを知りません。明日の朝、あなたが目覚める時にどんな違いから、奇跡が起こり、問題が解決したのだと分かるでしょうか。

(de Shazer, 1988, p.5)

 

ミラクル・クエスチョンが有効な理由は少なくとも二つあります。

1.奇跡を尋ねることによって、クライアントは無限の可能性を考えることが出来ます。

 

2.現在と過去の問題に向けられていた焦点が、今より満足のいく未来に焦点を当てます。

 

 

また、ミラクル・クエスチョンを用いる時の留意点についても以下にまとめます。

1.クライアントに問題思考から解決思考に切り替える余裕を与えるために、柔らかな声でゆっくりと穏やかに話す。

 

2.解決構築の作業が始まったことをはっきりと劇的に目立たせるために、「今から変わった、妙な質問をします」と断ってから行う。

 

3.何回も間をとり、クライアントが質問を理解し、自分の経験を違った側面から見るための時間を与える。

 

4.質問は将来についての描写を求めるので、次のような未来形を使う。

「どんな違いが起こるでしょうか」「奇跡が起こったと分かるしるしはどんなものでしょうか」

 

5.さらに詳しく知るための質問を続ける中で、解決の話しに移ったことを強調するために「奇跡が起こり、あなたがここへ来ることになって問題が解決したら」という言葉を頻繁に繰り返す。

 

6.クライアントが問題の話に戻る場合には、奇跡が起こると生活の中で何が違うかということにクライアントの注意を穏やかに向けなおす。

問題解決でなく、解決構築へVol.4(解決構築の出発点)

本シリーズ企画「問題解決でなく、解決構築へ」は、問題解決思考だけでは解決が困難な現在における様々な問題に対する代替となりうる「解決構築思考」について理解を深めることを目的に、以下の著書の要点をまとめていきます。

なお、この連載で取り上げるのはあくまで要点のみであり、原書にはその事例やより詳しい説明が書かれているため、正確な理解のためには原書をご確認いただきますようお願いいたします。

※本シリーズ企画の目的についての詳細はVol.0をご覧ください。

 

解決思考アプローチの第一人者であるピーター・ディヤングPeter De Jongとインスー・キム・バーグInsoo Kim Berg著の「解決のための面接技法 ソリューション・フォーカストアプローチの手引き第4版 Interviewing for Solutions 4th Edition

 

第4章 (解決構築の)出発点

 

はじめに、自己紹介した後でクライアントにどう呼んで欲しいか尋ね、私たちもどう呼んで欲しいと伝えます。

次に、クライアントが通常どんな一日を過ごしているかなどを尋ねるとよいとされています。こうした質問をアイスブレイクとみなす人もいますが、こうした質問の中から、クライアントの可能性のヒントを聴いていきます。

 

その後、問題の話に入る前に、面接の進め方を説明し、同意を得ると良いです。

 

ここで紹介されている一般的な解決構築面接の具体的な進め方としては、初回面接で30~40分掛け、問題、目標、例外、長所などについて話し合っておくと有効です。こうした情報が集まれば、10分の休憩を取り、その間に面接の最後に伝えるフィードバックを作ります。

 

上記の手順をまとめると、解決構築の臨床家は、面接開始時に次の2つを知ろうとします。

1.自分自身と状況についてのクライアントの認識や理解

2.クライアント自身の願望

 

その為の手法や考え方は第3章でも述べましたが、以下にその要点と注意点を中心に改めてまとめます。

 

 

出発点

 

 

【問題の描写】

第3章でも述べたとおり、クライアントの指向の枠組みに沿って取り組んでいくためには、「知らない姿勢」をとらなければなりません。

クライアントの見方を尋ね、聴き、肯定する必要があります。

 

この内容についての私の理解としては、援助者は「問題」自体に注目するのではなく、クライアントがその「問題」をどう捉えているか、見ているかを意識することであると思います。

 

本書においても、「問題がどうクライアントに影響しているか」を確認し、クライアントにとっての問題の意味を確認することの大切さが述べられています。

 

これは、問題自体とその原因を、援助者が専門家の視線で確認するアプローチとは正反対の捉え方です。

 

 

【クライアントがこれまでに試みたことで役に立つ事は何か】

クライアントは通常、問題をなくそうとして何らかの対処をしてきており、こうした試みはほとんどの場合、多少なりとも成功しています。「これまで何をしたか」とたずねる事は、クライアントには良い変化を起こすチカラがあるという解決思考の信念を伝えることになります。

 

 

【クライアントの望みに、ともにどう取り組むか】

多くのクライアントは問題の描写や問題の二次駅影響の話(プロブレム・トーク)をし、クライアントが臨む生活の中での違いについての対話(ソリューション・トーク)をしようとしても、すぐにプロブレム・トークに戻りがちです。

 

解決構築アプローチでは、クライアントの認識や大切なことについて承認しつつ、初回面接開始後5分~10分以内にソリューション・トークへの転換に挑むことが望ましいとされています。

 

これは、クライアント自身が解決に積極的なケースであっても、来談自体に否定的(むりやりつれてこられたようなケース)であっても基本的な考え方やアプローチは変わりません。

 

クライアントが変化に無関心だったり抵抗したりするような状況での面接の始め方についての4つの指針があるので、示しておきます。

 

1.クライアントの考えや行いには十分な理由があると仮定すること。

 

2.臨床家の判断を一時脇において、防衛的な姿勢の背後にあるクライアントの認識を認めること。

 

3.クライアントの最大の関心事、望んでいることについて必ず尋ね、クライアントの答えを受け入れること。

(質問するという事は、相手の見方を受け入れる用意があることを示す)

 

4.クライアントの言葉を傾聴し、あなたの言葉に言い換えずに、そのまま使うこと。

 

 

【問題解決思考や援助職の医学モデルによるクライアントの見方についての反論】

問題解決思考では、専門化がクライアントにとって最善のことを知っているという考えを前提としています。そのため、クライアントに対し「協力的である」「抵抗する」と分類し、抵抗するクライアントに対しては、専門家はそれに挑戦して対決し、認識を改めさせない限り、クライアントは変化しない(治療できない)と考えます。

 

つまり、主体としての援助者(臨床家)は客体としてのクライアントを専門的な見立て(アセスメント)と介入で変化させることを期待されています。その結果、クライアントが進歩を示せば援助者の功績となり、自分は有能だと感じます。ところがクライアントが進歩を示さない場合、援助者の功績にはならないうえに、援助者とクライアント双方が援助者の有用性を疑います。

 

ところが、クライアントの抵抗という考えを使えば、悪いのは進歩しないクライアントであり、援助者は責任を負わずに済む。その為に「抵抗」という考えを使っているのではないかと、「やや懐疑的に考えるなら」という前置きをしつつ、本書では述べています。

 

 

逆にスティーブ・ディ・シェイザー(de Shazer,1984)の「抵抗の死」というタイトルの次のような論文を紹介しています。

 

援助者によってかされた課題に従わないクライアントは、抵抗しているのではなく、その課題が彼等のやり方にそぐわないことを援助者に伝えているのであり、まさに協力しているのです。

 

クライアントには願望や必要なものと、それを得るための方法を考え出す能力があると仮定しています。そして、援助者の責務は、クライアントの選択に従い、満足度の高い生産的な生活にするために、彼らが自身の能力に気づき、それらを活かしていくよう援助することであると述べています。

 

つまり、クライアントが有能であるという考え方をいったん受け入れると、クライアントの抵抗とみなされていたものは、正確には臨床家の抵抗であるという屈辱的かつ挑戦的な結論が得られるのです。

 

 

上記の考え方に私は賛成であると同時に、実社会においてそうした環境を作ることの難しさと(だからこその)大切さを、本章を読み進めながら改めて感じています。

 

表向きや掛け声として、「うまくいかないのはクライアントのせいではなく、こちらの至らなさ」であるとは言えるかもしれません。しかし、仕事をする上で、問題が起きた時に自分や自分達の責任とすることができる信頼関係と覚悟を築く事は難しいからです。

 

逆に言えば、そうした信頼関係と覚悟を築くことは、問題点とその原因から解決策を考えるという今までの視点を超えた、理想の姿やありたい姿とそのために活かせるリソースに目を向けられるより広い視野を持つタフな組織作りに繋がるのだと考えています。

問題解決でなく、解決構築へVol.3(知らない姿勢で一歩後ろから導く)

本シリーズ企画「問題解決でなく、解決構築へ」は、問題解決思考だけでは解決が困難な現在における様々な問題に対する代替となりうる「解決構築思考」について理解を深めることを目的に、以下の著書の要点をまとめていきます。

なお、この連載で取り上げるのはあくまで要点のみであり、原書にはその事例やより詳しい説明が書かれているため、正確な理解のためには原書をご確認いただきますようお願いいたします。

※本シリーズ企画の目的についての詳細はVol.0をご覧ください。

 

解決思考アプローチの第一人者であるピーター・ディヤングPeter De Jongとインスー・キム・バーグInsoo Kim Berg著の「解決のための面接技法 ソリューション・フォーカストアプローチの手引き第4版 Interviewing for Solutions 4th Edition

 

 

第3章 知らない姿勢で一歩後ろから導く技法

 

第2章の最後に述べた「クライアントに自分の生活の専門家」になって欲しいのであれば、援助者は自分の思考の枠組みを脇に置き、クライアントの思考の枠組みを探究する方法を知る必要があります。

 

言い換えると「知らないnot knowing」姿勢をとる方法を身につけなければなりません。

 

知らない姿勢とは、援助者が強い、純粋な好奇心をもっていることを伝える態度や行動です。つまり、クライアントの話しをもっと詳しく知りたいという態度と行動を取ることであって、援助者の先入観を持った意見や、クライアント、問題、変化についての予測を伝えることではありません。

従って、援助者はいつもクライアントから「知らされる」状態に身を置くことになります。

(Anderson & Goolishian, 1992, p.29)

 

一歩後ろ

 

本章では、そのための基本的コミュニケーション技法について述べますが、事前に私自身の技法についての考え方を述べておくと(恐らくそれは著者とも一致しているが)、技法とは、誰かを援助する上での「あり方」を体得するための手段であって、技法の実践自体が目的ではありません。

 

この「あり方」について、今後本書を読み進め、自身との対話を深めていくうちに考えは変わるかもしれませんが、現時点での私の考えについて以下の3つにまとめておきます。

 

1.目の前の人のチカラに成りたい

これは、このブログの最初の記事にまとめた通り、他人に対しての無力さを認めた上で、喜びを見つける努力をしたい気持ち

 

2.自分を認める(≒自己一致)

上記1のように考える自分、そんなこと考えたり行動しても損するだけだからって想う自分、損すると分かっていても自分自身でいたいと想う自分。

全部ひっくるめてそんな自分を認める

 

3.信頼

自身と他人を信頼すること

これは、傾聴によるカウンセリング(来談者中心療法)を確立した、カール・ロジャースの言葉が、人と向き合う上でのあり方を表していると思います。

「何が傷ついているか、どこに向かえばいいのか、どの問題が重要なのかを知っているのはクライエントである。

したがって、カウンセラーは自分の賢明さを誇示する必要はなく、クライエントが進んでいくプロセスを信頼すべきである。」

 

 

 

それではこれから解決構築における基本的面接技法について紹介します。

ただし、この章で紹介されている技法は21つと膨大であるため、要点のみを述べます。

前述の通り、原書には実際の活用事例や様々な研究者による研究結果の比較や分析などが記されているため、正確なご理解には原書をご確認ください。

 

【基本的面接技法】

1.クライアントにとって重要な人と事柄を聞き取る

クライアントは、必要な援助について説明する時に、自分にとって重要な人、関係、出来事を話します。そのため、援助者も重要な人物や出来事に注意を集中して聴くことによって、3つの重要な結果が得られます。

i)援助者が、クライアントの指向の枠組みの重要な部分に直ちに気づく

ii)クライアントの話しを評価する傾向を控える

iii)聴き手の観点からの早急な問題解決に走ろうとすることを防ぐ

 

逆を返すと評価的な見方をすることは

聴くと同時に評価する事は容易ではなく、最初に聞いたことを考えながら次の言葉を聞き取ることは難しいため、注意深く相手の話しを聞き取ることが出来ず、短絡的に問題解決へと進みがちになるのです。

 

 

2.可能性のヒントに注目する

クライアントの話す問題の詳細部分だけにのめりこんでしまうと、援助者もクライアントも解決への見通しをもてなくなり落胆してしまいます。

そうならないためには、彼等が変えたいと思っていること、過去の成功、状況の改善のために既に試みたことを彼等の話の中から注意深く聞き取ることです。

 

 

3.質問を組み立てる

質問を効果的に使うためには、ベートーベンのコンチェルトやモダンジャズの曲を芸術的に演奏するのと同じように、練習が必要です。

質問の作成と尋ね方を身につけるためには、次の一般原則を強調することが最も重要です。

 

「次にする質問はクライアントの直前の(または1つ前の)答えから作る。」

 

また、質問は単にクライアントから情報を得るための方法ではなく、多くの場合、質問と応答の過程を通じて質問者と応答者が新しい認識を持ち、未来に対して新しい可能性を持つようになることです。

 

 

4.詳細な情報を得る

クライアントは漠然とした表現や一般化した話し方をすることが多いです。

(例えば「子ども達と前よりもうまくやっています」)

その際に「誰が、何を、いつ、どこで、どうやって」という「whとhow質問」を使い、尋ね、詳細な情報を得ます。

 

ここに「なぜ」という質問が含まれていません。

「なぜ」という質問はクライアントの行動と状況の潜在的原因をクライアント自身に分析させることになり、クライアントが援助者によって問題に対決させられたり裁かれたりするように感じる危険があり、解決構築に有効ではないと分かっているからです。

 

 

5.クライアントのキーワードを繰り返す

キーワードとは、クライアントが自分の経験とその経験に自分が付け加えた意味とを表現するために用いる言葉です。

つまり、援助者がその言葉について知っていたとしても、クライアントがその言葉をどういう意味づけをして使っているは分からないので、「知らない」という感覚でクライアントのキーワードに純粋に関心を持つことが大切です。

 

逆に、援助者が専門用語などで言い換えをしてしまうということは、相手の認識を尊重していないということであり、相手の自身を失わせることにもなります。

 

 

6.クライアントの言葉を組み込む

上記5の通りクライアントのキーワードを繰り返すだけではなく、質問やそのほかの応答にも組み込んでいくことが大切です。

 

 

7.オープン・クエスチョンとクローズド・クエスチョン

援助者はクライアントに対して、「知らない」という姿勢を取り、クライアントに「自分の生活についての専門家」という役割をとってもらうよう意識します。

オープン・クエスチョンはクライアントの態度、思考、感情、認識を尋ねる時に使われる方法であり、解決構築を進める上でそこを意識できていれば有効です。

 

 

8.要約

要約とはクライアントの思考、行動、感情を折に触れて、彼らに伝え直す作業です。

カール・ロジャースは、要約は相手の指向の枠組みの理解を進め、聞きえが話し手の言葉を聴きながら評価する傾向に歯止めを掛けられるため、対話中にいつでも効果があると述べています。

(Rogers, 1961, p.332)

 

 

9.言い換え

言い換えは「内容の反射」と言われることもあり、クライアントが話したばかりのことの本質を彼らにフィードバックすることです。

言い換え(要約も)は援助者がクライアントの話しを本当に聴いていることを示す非常に有効な方法です。

 

 

10.沈黙の活用

多くの場合、沈黙はクライアントが自分で答えを出すチカラを発揮するために有効です。

 

 

11.臨床家の非言語行動

クライアントはほとんど例外なく、(特に面接開始時に)援助者が注意深く、敬意を持って聞いているかに敏感で、その結論を出しています。それには、多くの文献で、面接者の非言語行動が影響を与えると強調されています。

 

ただし、本著者の結論としては、非言語行動は間違いなく重要であるが、聞くべきことを聞き、それについて質問することの方がさらに重要であり、その意識と実践の中で、適切な非言語行動もそれと一体化されると述べられています。

 

 

12.クライアントの非言語行動に注目する

援助者の質問や関わりが、クライアントにとっての重要な人物と事柄を組み込めているかを確認する上で、非言語行動に注目する事は役に立ちます。

もしクライアントの思考とズレてしまっている際には、次の質問によって軌道修正を図ることができます。

 

「この面接の終わりに、話し合ってよかったとあなたが言えるためには何が違う必要がありますか。」

 

 

13.自己開示

本書では、援助者が自身の経験をクライアントに話すことを勧めてはいません。それは、「クライアントと同様の悲劇を経験した援助者が最も有効な援助ができる」という疑わしい仮説に基づいていると考えているからです。

 

あくまで、自己開示はクライアントの話した内容についての援助者の認識を伝える手段として用いるべきだとしています。

 

 

14.コンプリメント(賞賛・ねぎらい

クライアントの個人的資質と過去の経験をうまく引き出し、クライアントがそれに気づくこと(=コンプリメンと)ができれば、困難を解決し、満足のいく生活をつくるのに役立ちます。

コンプリメンとの第一の目標は、クライアントが率直にコンプリメントを受け入れることではなく、クライアントが自分の肯定的変化、長所、資源に気づくことです。

そのため、援助者がクライアントに親切にしたいという気持ちでコンプリメントをしてはいけません。クライアントが言葉と非言語行動を通して伝えたことから導かれる現実に根ざしたものをもって行う必要があります。

 

 

15.クライアントの見方の肯定

クライアントの認識を探求し、彼らが話したままの認識を尊重して肯定することです。

これは必ずしも「感情」に焦点を当て、認めることではなく、もっと全体的なクライアントの「認識」についての見方をさします。

 

 

16.自然な共感

「同情」はsympathy(シンパシー)と訳し、「共感」はEmpathy(エンパシー)と訳すと捉えやすいです。同情は相手と同じ感情や関心を持つことで、共感は自分を持ちつつ「まるで」自分自身のように相手の世界を感じることだとカール・ロジャーズは説明しています。(Rogers, 1957, p.99)

 

ただし本書では、

「クライアントと協力関係を作るためには、感情について特別な会話を取り出す必要はない」

と述べられ感傷や否定的感情を強めるような共感(例えば「今あなたはずいぶん落ち込んでいますね」といった、感情の反映の例で、一般的な傾聴の教科書に載っている言葉)は、ますますその方向に落ち込ませるだけで、よい変化を生み出すことはないとしています。

 

 

17.ノーマライズする

クライアントのプロブレム・トークを聞いて、それが特別な状況ではなく、その問題が普通の生活でも(一般的にも)起こるのではないかとクライアントと考えることです。

 

 

18.クライアントに焦点を戻す

クライアントの認識を傾聴し、それを尊重しつつ、他の人や現状の好ましくないこと(プロブレム・トーク)ではなく、現状をどう変えたいのか、自分が解決にどう関わるのか(ソリューション・トーク)に焦点を移せるようチカラを貸すことです。

 

 

19.クライアントにとっての意味を探す

解決構築に最も役立つのは、問題ではなく過去の成功と将来の可能性に関わる彼等の意味づけです。

クライアントにその人なりの意味を考えさせ、作らせるために、通常2つの知らない姿勢の質問が使われます。

1つ目は、クライアントがこれまでに行ったことや、これからって見ようと考えていることが役立ったり助けになったりするか尋ねることです。

2つ目は、クライアントの成功と可能性に関わる意味だけでなく、相互作用的な意味を尋ねることです。(例「上司にそのように話そうと決めたことで、あなたと上司の間で何が違ってくるでしょうか」)

 

 

20.関係性の質問

人の生活の大部分は他者との相互関係で成り立っており、しかもその他社の多くがその人にとってとても大事な人たちです。

そのため、「問題が解決したらあなたと○○さんの間で何が違っていますか」といった関係性に関する相互作用について質問する事は解決を増幅させる主な方法です。

 

 

21.ソリューション・トークを増幅する

プロブレム・トークからソリューション・トークへの転換点を見逃さず、生活がどう違って欲しいか、またどうしたらそうなるかを詳しく話すように促すことです。

 

 

 

以上、長くなりましたが、解決構築における21技法を紹介しました。

最後に、解決思考面接における、クライアントとの共同的対話プロセスの考え方について説明します。

 

カール・ロジャーズは、援助者の用いるクライアントへの対応を「反射」としましたが、解決構築では「聞き、選択し、構築する」という言葉を使います。

聞く:クライアントの発言を慎重に聞き取り、一つ一つの発言中の解決指向の可能性のヒントに気づくこと。

 

選択する:気づいた可能性の中から、面接のその時点で最も役に立つと思われることを選び出すこと。

 

構築する:クライアントを解決指向の方向に導く言い換えまたは質問を組み立てること。

問題解決でなく、解決構築へVol.2(解決構築の基本)

本シリーズ企画「問題解決でなく、解決構築へ」は、問題解決思考だけでは解決が困難な現在における様々な問題に対する代替となりうる「解決構築思考」について理解を深めることを目的に、以下の著書の要点をまとめていきます。

なお、この連載で取り上げるのはあくまで要点のみであり、原書にはその事例やより詳しい説明が書かれているため、正確な理解のためには原書をご確認いただきますようお願いいたします。

※本シリーズ企画の目的についての詳細はVol.0をご覧ください。

 

解決思考アプローチの第一人者であるピーター・ディヤングPeter De Jongとインスー・キム・バーグInsoo Kim Berg著の「解決のための面接技法 ソリューション・フォーカストアプローチの手引き第4版 Interviewing for Solutions 4th Edition

 

 

第2章 解決構築の基本

 

解決への扉に通じる最も有効な方法は、問題が解決されたときに、クライアントがどんな違う行動をしているか、どのような違ったことが起きるかのイメージを手に入れることであり、有益な変化を予想することなのだ。

(de Shazer, 1985,p.46)

 

 

解決構築の面接は大きく2つの活動にまとめられます。

 

1.クライアントの思考の枠組みを下に、ウェルフォームド・ゴール(十分に練り上げあられた現実性のある目標)を作り出すこと

 

2.例外をもとに解決を作り出すこと

 

 

上記1で取り上げた、ウェルフォームド・ゴールには、4つの特徴があります。

クライアントにとって、そのゴール(目標)は、

i)重要で

ii)小さく

iii)具体的で

iv)何かの終わりではなく、違うことの始まりであること

 

 

上記2で取り上げた「例外」とは、クライアントの生活の中で、問題が起きて当然ながらも問題が起こらなかったり、問題の程度が深刻ではなかったりする状況をさします。

 

 

解決構築の臨床家(援助者)は、この例外の情報をもとに、クライアントが問題を解決したり改善したりするための方策をひねり出すよう援助します。

 

つまり、解決構築アプローチでは、問題解決アプローチのように問題に関わる誰が、何を、いつ、どこで、なぜを、探求しません。

解決構築では、例外の状況について、誰が、何を、いつ、どこで、を知ることに焦点を合わせます。

 

 

解決構築アプローチでは、原因を一般化して、専門的な知識から解決策を導き出そうとするのではなく、クライアントの例外というリソースの中から、ゴールに向かうための具体的な行動を共に考えるのです。

 

解決構築

 

<解決構築の諸段階>

第1章では、問題思考の諸段階を説明しましたが、対比しやすいよう解決構築思考の諸段階について紹介します。

 

1.問題の描写

最初にクライアントが問題や心配事を説明するという点では、問題解決と解決構築の両者は共通しています。

しかし、解決構築の場合、問題解決アプローチほどこの段階に時間と労力を費やしません。

問題の性質や程度については詳しく尋ねず、問題の原因についても質問しません。

その代わりに、クライアントの問題の説明を丁寧に聞き、会話を次の段階、つまり解決の話に向けることを考えます。

 

2.ウェルフォームド・ゴールを作る

問題が解決した時に、生活の中で違っていることについての話しをクライアントから引き出し話してもらいます。問題解決思考の支援者であれば、アセスメントをする段階ですが、解決構築思考ではクライアントとこの作業に取り組みます。

 

3.例外を探す

クライアントの生活の中で問題が起こっていないとき、またはあまり深刻でない時について尋ねます。誰が何をして例外が起きたのかについても質問します。

問題解決アプローチでは介入を作る段階です。

 

4.面接の終わりのフィードバック

解決構築では面接のたびごとに終了時にクライアントへのメッセージを伝えます。

その中には、必ずコンプリメント(賞賛・ねぎらい)があり、提案が含まれることもあります。

コンプリメントでは、問題を解決しようとしてクライアントが既に実行している有効なこと(例外)を取り上げて伝えます。

提案では、クライアントが解決作りを進めるために観察したり、行動したりすることを明示します。

クライアントの思考の枠組みを尊重しながら、目標達成に向けてうまくやれる機会を増やすために、彼等がそのまま続けることと変更することとに焦点を合わせます。

問題解決思考であれば、介入を行うこの段階で、フィードバックを作成し、伝えます。

 

5.クライアントの進歩を評価する

クライアントが満足する解決にどれほど近づいているかをクライアントと共に繰り返し評価します。これはスケーリング(0から10のメモリでクライアントに進歩を評価させる)によって行います。クライアントの評価に対し、さらに何をしていく必要があるのかについて両者で検討をします。

 

 

<クライアントは専門家である>

第1章で述べたように、援助専門家は従来、問題や解決についての蓄積された科学的知識という専門性を頼りにしてクライアントと関わってきました。

そのような専門性への依存の結果、援助分野の臨床家達は問題や解決についての自分達の認識がクライアントの認識より重要であると思い込んできました。

事実、専門書は、クライアントの認識はしばしば専門家の臨床の妨げとなり、臨床家がが克服せねばならないクライアントの抵抗のもとになると述べています。

 

対照的に解決構築では、クライアントが彼等の生活の専門家であると強調します。

クライアントの問題を、科学的に査定し介入するのではなく、クライアントが満足できる生活にしていくために使える認識を引き出す専門家でありたいと考えるのです。